『ソロモンの犬』道尾秀介

道尾秀介、読まず嫌いしてたの後悔。

 

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『ソロモンの犬』道尾秀介

秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。

 

感想をまとめにくい物語だった。

冒頭ではなかなか感情移入し辛い登場人物たちなんだけど、パッとしなかった間宮があそこまで真理に近づく重要な役割を担うとは思わなかった。

どこか全員が噛み合わずちぐはぐな様子で進み、2つの時間軸の設定がどう展開・収束されていくのかわからなかった。だけど途中から各々絡み合っていき、徐々に全員に疑いの目を向けてしまい、物語に没頭させてくれた。

終盤は全く予想できなかった展開で、真犯人発覚後のドンデン返しではめっちゃテンション上がった。

宗教観や神話と、動物の生態についてが見事に混ざっていて、動物の忠実・純粋な行動ゆえに、悲劇が起こしてしまったというのが心に残った。

読後感は爽快だし、青春小説としてかなりオススメ。

なんでこの人読んでなかったんだろう。

 

 

 

ソロモンの犬 (文春文庫)

ソロモンの犬 (文春文庫)

 

 

『天久鷹央の推理カルテIII: 密室のパラノイア』知念実希人

エピローグでの期待感。

 

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天久鷹央の推理カルテIII: 密室のパラノイア知念実希人

呪いの動画によって自殺を図った女子高生。男性に触れられた瞬間、肌に異常をきたす女性。そして、密室で溺死した病院理事長の息子…。常識的な診断や捜査では決して真相にたどり着けない不可解な事件。解決できるのは、怜悧な頭脳と厖大な知識を持つ変人女医・天久鷹央、ただ一人。日常に潜む驚くべき“病”と事件の繋がりを解明する、新感覚メディカル・ミステリー第3弾。

 

エピローグを読んだ時に、「初めて鷹央が敗れるのか?」という不安と期待感が溢れてくる。

今回エピソードごとの繋がりがあるわけではないんだけど、メインエピソードの読み応えが十分にあって満足。

いつも謎の真相を解明してから種明かしをする鷹央が、小鳥を統括診断部に残すために、自分のポリシー・プライドを曲げてでも、とにかくわかることから少しずつ明らかにしていくというような、謎に近づこうとする姿に人間味を感じた。

エピローグの繰り返し部分をラスト手前で読んでからの、全く気づかなかった盲点が現れてからの展開が爽快。

今作は特に珍しい原因による症例をトリックや状況に繋げていく、ある意味逆説的?な文章の見事さに感嘆した。

あと終盤の島崎刑事との、『プロ』と『素人』の話でのやりこめ方が痛快だった。

2人の関係性も、上司と部下、友達以外への展開も期待させてくれる。

 

 

 

 

sunmontoc.hatenablog.com

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『プリズム』貫井徳郎

勉強になった。

 

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『プリズム』貫井徳郎

小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが…『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。

 

最初のエピソードで小学生の会話じゃないなと。でもそこは重要なポイントではなかった。(まあまあラストには関係あるんだけど)

当初は見当違いの推論から、次に疑いを被った人物の推論に繋がっていって、その推論のズレによって徐々に核心に迫っていくのかなと思った。だけどあとがきまで読むとわかるんだけど、「最終的な結末があまり重要視されていない」っていう形式で、脈々と受け継がれているミステリーの系譜なんだなと学んだ。そこまで知ると、ラストの意味と作品の意図に納得する。

ラストが冒頭のエピソードに回帰していて、メビウスの輪のように捻れながら永遠に続いていくような感じが面白い。

『美津子』という眩し過ぎるくらいに輝きを放ち乱反射している人物を軸に、美津子にある種狂わされ、溺れていく各登場人物ごとの側面の書分けが見事でした。

もっと小説について、理論的な部分を学びたいと思わせてくれた。

 

 

プリズム (創元推理文庫)

プリズム (創元推理文庫)

 

 

 

 

『天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 』知念実希人

より泥臭く。

 

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天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 』知念実希人

炭酸飲料に毒が混入された、と訴えるトラック運転手。夜な夜な吸血鬼が現れる、と泣きつく看護師。病室に天使がいる、と語る少年。問題患者の巣窟たる統括診断部には、今日も今日とて不思議な症例が舞い込んでくる。だが、荒唐無稽な事件の裏側、その“真犯人”は思いもよらない病気で…。破天荒な天才女医・天久鷹央が“診断”で解決する新感覚メディカル・ミステリー第2弾。

 

前作と比べて、エピソードが1つ減ったこともあり、独立した編といえども一冊の物語としての強度は増している。

他のシリーズでもそうだけど、同じような文章を使用してプロローグをラストに回帰させるという手法は、冒頭ではわからなかった心情や意味を、より深く理解させてくれるから好き。

今作はストーリーごとの、奇特な病気に強く惹かれるというよりも、鷹央の人・医師としての脆さや弱さがより際立ち、それらを乗り越える不器用な人間臭さが強く心に残った。また、小鳥との関係性というか絆もより強固なものになっていく。

後のシリーズを通して、2人がどんどん成長していくのかなと期待させてくれる。

 

次のシリーズも楽しみ。

 

 

 

 

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

 

 

 

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『ブックストア・ウォーズ(書店ガール)』蒼野圭

『書店ガール』の原題だと読み終わってから気づいた。

 

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『ブックストア・ウォーズ』蒼野圭

27歳の亜紀は、大手出版社の編集者と結婚して幸せいっぱい、仕事も楽しくてたまらない。文芸書はもちろん、コミック、ライトノベルボーイズラブにも気を配り、売り場改革案や人気漫画家のサイン会など、ユニークな企画を次々打ち出している。ところが、40歳の独身副店長・理子とは、ことごとく衝突続きの日々。その理子が店長に昇進した直後、6ヵ月後に店が閉鎖されると知った二人は…。恋愛、失恋、結婚、離婚、たまには嫉妬や喧嘩だってある。ワーキングガールズの世界は、幸せ色のピンクや涙色のブルーで彩られたビックリ箱。この本は、働く女性たちへのリアルな応援歌。

 

かなり軽い話なのかと思ったら、なかなか。

企業の理不尽さも表されていて、思わず最後は鳥肌が立った。

主人公2人が、冒頭ではどのように絡み合っていくかがあまり掴みきれず、片方が良くて、片方がそれに歯向かうというか、反発するような形式ではなく、どちらにも欠点や長所があり、主観の比率が割と等分なまま進んでいって、不思議な読み心地だった。

中盤以降の書店の巻き返しでは、出来過ぎな部分もあるけど、素直に本屋って良いな、働いてみたいなと思わせてくれる。

あと、男っていうのは、女性への想像力が絶対的に足りない生き物なんだなと思わせるところもあった。笑いのネタとの分別というか、ネタにしなければ処理(自己防衛)できないほどの辛さみたいなものを想像してあげれていないんだなと痛感した。

ネット注文や電子書籍の良さはもちろんわかっているし、恩恵も受けているけど、やっぱり「本」が実在する本屋って良い場所だなと改めて感じさせてくれる。

亜紀の自分の善悪の価値観を貫いて、他人の悪ノリに流されない態度に憧れるというか眩しく感じた。

 

シリーズもっと読みます。

 

 

ブックストア・ウォーズ

ブックストア・ウォーズ

 

 

 

書店ガール (PHP文芸文庫)

書店ガール (PHP文芸文庫)

 

 

 

 

『無理』奥田英朗

父親に薦められて上下巻一気読み。

 

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『無理』奥田英朗

合併でできた地方都市、ゆめので暮らす5人。相原友則―弱者を主張する身勝手な市民に嫌気がさしているケースワーカー。久保史恵―東京の大学に進学し、この町を出ようと心に決めている高校2年生。加藤裕也―暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマン。堀部妙子―スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる、孤独な48歳。山本順一―もっと大きな仕事がしたいと、県議会に打って出る腹づもりの市議会議員。出口のないこの社会で、彼らに未来は開けるのか。(Amazonより)

 

まず、東北地方だと思われる雪国の人口12万人程度の寂れた合併都市っていうのが、自分自身にリンクしすぎている。

ストーリー的にはわが街でくすぶっているもしくは街に絶望している5人のエピソードが徐々に交差していくんだけど、とにかくそれぞれのエピソードが濃厚でハマっていく。世代ごとの状況や心象描写の書分けも良い。ただ福祉業界の経験があるものとしては、生活保護の取り扱い方に「?」な部分もある。場所や時代が違えばそれが正しいのかもしれないけど。

ラストまでは本当に5人それぞれの展開がめちゃくちゃ面白くてのめり込むんだけど、最後の収束の仕方が、「え?これで終わりなの?」と風呂敷広げた割には物足りなさというか無理やり感も否めない。それぞれの話をもっと読みたい。

でも、地方に生きる身としては、周囲も空さえも閉塞的な状況には、共感する部分が多々あって、読んでて嫌になりながらも面白かった。

 

この人の作品ももっと読もう。

 

 

無理〈上〉 (文春文庫)

無理〈上〉 (文春文庫)

 
無理〈下〉 (文春文庫)

無理〈下〉 (文春文庫)

 

 

 

 

 

『天久鷹央の推理カルテ』知念実希人

ずっと手つけてなかったシリーズをついに。

 

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天久鷹央の推理カルテ知念実希人

統括診断部。天医会総合病院に設立されたこの特別部門には、各科で「診断困難」と判断された患者が集められる。河童に会った、と語る少年。人魂を見た、と怯える看護師。突然赤ちゃんを身籠った、と叫ぶ女子高生。だが、そんな摩訶不思議な“事件”には思いもよらぬ“病”が隠されていた…?頭脳明晰、博覧強記の天才女医・天久鷹央が解き明かす新感覚メディカル・ミステリー。

 

期待通りに面白かった。

しかも、主人公の能力を活かすための「統括診断部」という設定や、ただ不仲だけではなく、ドライに信念を貫いている病院長など、想像以上に読み応えがあった。

知らないような病気について知れるのがまずただただ楽しいし、各エピソードごとに伏線というか病気の原因になる出来事の回収が見事だった。

あと、無邪気に自分の欲を満たすように診断をしている主人公が、妊娠した女子高生には、精神論じみたことを本気でぶつけて説得しているところが特に好きだった。

 

メルカリで風呂で読むようにシリーズまとめ買いしたので、どんどん読み進めます。

 

 

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)

天久鷹央の推理カルテ (新潮文庫nex)