『ジャッジメント』佐藤青南

期待以上でした。

 

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ジャッジメント』佐藤青南

プロ野球チームの監督殺害の容疑で、戦力外通告を受けた投手が逮捕された。新人弁護士・中垣拓也のもとに弁護の依頼が舞い込む。容疑者はかつて共に甲子園を目指した球友、宇土健太郎だった。高三の夏、ある事件をきっかけに絶交した二人。脳裏には、ほろ苦い“約束の記憶”が蘇る。中垣は宇土の無罪を勝ち取れるのか?法廷サスペンスと青春小説が融合する傑作ミステリー。(Amazonより)

 

この作者は二冊くらい読んだことあって、面白かったけどどはまりした感覚はなかった。

でもあらすじを読んで「高校野球」×「法廷闘争」ってところに惹かれまくって。絶対面白いじゃん。

 

物語は過去(高校時代)と現在(裁判)で進んでいき、こういう形式では割と過去の出来事が繋がって現在が発展したり解決したりするイメージが強かったんだけど、この作品では過去の確執の理由が最後までわからず、むしろ現在が解決してもわからず、エピローグ的な場面でやっと判明してってのが新鮮だった。しかも冒頭部分をしっかり回収してて理由も素敵で見事でした。現在と過去をひとつの病気で繋いでいるのもすごかった。

 

法廷での論争も主人公である弁護人の反論が理論がクリティカルで痛快。トリックの暴露というよりも証人それぞれの矛盾点を露わにしている感じかな。

 

今作でかなり印象変わったので他の作品も読んでみよう。

 

 

ジャッジメント (祥伝社文庫)

ジャッジメント (祥伝社文庫)

 

 

 

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『明日の子供たち』有川浩

半年間の放置。。

やっぱり一度書かなくなると再開するのエネルギー要る。

読んだ本全部感想書こうと思ってたけど、自分へのプレッシャーひどいのでこれからは書きたいやつだけ書いてきます。

 

そう思わせてくれたのがこの作品。

 

 

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『明日の子供たち』有川浩

三田村慎平・やる気は人一倍の新任職員。和泉和恵・愛想はないが涙もろい3年目。猪俣吉行・理論派の熱血ベテラン。谷村奏子・聞き分けのよい“問題のない子供”16歳。平田久志・大人より大人びている17歳。想いがつらなり響く時、昨日と違う明日が待っている!児童養護施設を舞台に繰り広げられるドラマティック長篇。

 

読書サイトやアカウントでオススメされてて、内容も面白そうなのでずっと気になってたやつ。

 

本当読んでよかった。

 

自分も福祉に携わっているけど、目から鱗なこと、作中の表現を使えば「価値観が転倒」することや、これからの仕事でも意識しなければいけないことがたくさん書かれていた。「社会的負担ではなく『投資』」っていう考え方がめちゃくちゃ残ってる。

 

最初は百パー感情移入しきれない登場人物が多いなーって思ったけど、全員がどんどん学んで・発揮して・柔らかくなって・素直になって・悔いが晴れてひとつになっていく交わり具合がすごく良かった。

 

クライマックスの講演での「砕く」シーンは涙が出たし、最終章のタイトルが予想してた意味よりももっと素敵だった。と、本当に大満足で終われるのに最後の解説でまたテンション上がる。現実世界も捨てたもんじゃないなと思わせてくれる。

 

本当にいろんな人に読んで欲しい心からオススメしたい物語です。

 

明日の子供たち (幻冬舎文庫)

明日の子供たち (幻冬舎文庫)

 

 

 

空飛ぶ広報室 (幻冬舎文庫)

空飛ぶ広報室 (幻冬舎文庫)

 

 

 

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『95』早見和真

マジでこの作者ハズレないな…。

 

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『95』早見和真

1995年、渋谷。平凡な高校生だった秋久は、縁のなかった4人の同級生から突然カフェに呼ばれ、強制的にグループへ仲間入りされられる。他校生との対立、ミステリアスな女の子との出会い…秋久の経験したことのない刺激的な毎日が待っていた。だがある日、リーダー的存在だった翔が何者かに襲撃されてしまう。秋久は真犯人を捜すため立ち上がった―。激動の時代を駆け抜けた少年たちの心の叫びがほとばしる、熱烈青春ストーリー。(Amazonより)

 

三十路が目前に迫ってきて、中年が青春時代を振り返ったり、青春時代の清算をする話に心打たれる。

時代背景的に、『ドルフィン・ソングを救え』や『ボクたちはみんな大人になれなかった』にどこか似ていた。

思春期に信じていたことを振り返ると、どうしようもなくダサいし恥ずかしいんだけど、そのダサかったことに対してもがむしゃらに向き合っていて、青臭いかっこよさがある。

あとやっぱりここ数年小説を読んでいて痛感することは、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件と同列、もしくはそれら以上に、自我が芽生えてから経験した東日本大震災は紛れもなく日本の転換期として描かれていて、文芸に限らず文化を表すには、そこを避けて通れないんだなと。

作中の翔が語る、

『あの頃の俺は輝いていたとか、あの頃は毎日楽しかったとか、そんなことを言ってる大人が一番ダサい。ウソでもいいから今が一番幸せだって笑ってられる人間になってようぜ。』

っていうところが、自分自身がずっと言い続けてることにも通じていて身に沁みた。

最近、こういう「果たしてこのままの人生でいいのか?」って思わせてくれる作品に多く出会えているから、今後の選択肢についてしっかり考えなきゃなと焦らせてくれる。

懐古主義とは違って泥臭いダサかったことについて、仲間と一緒に時が経ってから振り返ったり、ケリをつけるっていうのはイイことだなとしみじみした。

 

 

95 (角川文庫)

95 (角川文庫)

 

 

 

ドルフィン・ソングを救え!

ドルフィン・ソングを救え!

 

 

 

ボクたちはみんな大人になれなかった

ボクたちはみんな大人になれなかった

 

 

 

『花咲小路三丁目のナイト』小路幸也

花咲小路シリーズ第四弾。

 

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『花咲小路三丁目のナイト』小路幸也

元「怪盗紳士」も、若手刑事も、ちょっと不思議な花屋さんもいる花咲小路商店街。たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起こる。今回の舞台は花咲小路唯一の深夜営業のお店、「喫茶ナイト」。商店街のみなさんの、夜にしかできない相談ごとに応えていて―。(Amazonより)

 

もちろん作風や主人公の性格もあるけど、推理力・観察眼の高さが、天久鷹央なんかとは違いこれ見よがしではなく、自然にすっと頭に入ってくる感じが心地良い。

作者の特徴である悪い人が1人もいない世界でそれぞれが他人を思いやって、小さな世界のちょっとした出来事や事件を解決していく過程で、各登場人物の長所や美点を満遍なく表現されている優しい世界。

それぞれの問題が一度に羅列される時点では、「どうまとめるんだろう?」と思ったけど、最後の大岡裁きは見事すぎる。「あかさか」を望が継ぐのは予想できたけど、射撃やハシタンも絡めて解決に持っていくとは思わなかった。

その終盤での仁太から全員に向けた、

『人ってのはさ、いろいろだ。人生ってのもいろいろだ。自分で生きる場所を作れる人間がいれば、生きる場所を探せる人間もいる。辿り着いた場所で幸せを探す人間もいれば、与えられた場所でしっかり立つ人間もいる。他人と違うことを、逃げ出したことを、耐え切れなかったことを悔やんでいてもしょうがない。そこから、どうやって生きるかが大事なんだ。』

って言葉が、生きていく上でものすごく大事なことなんだなと、小学生みたいな感想だけど素直に感じた。

シリーズを通して、昔から知っているように思えるやさしい人たちに再会できているような感覚がすごく好きなので、今後もシリーズずっと出して欲しい。

そして、そろそろ『東京バンドワゴン』シリーズ最新作読みたい。

 

 

花咲小路三丁目のナイト

花咲小路三丁目のナイト

 

 

『i(アイ)』西加奈子

やっぱこの人天才だ。

 

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『i(アイ)』西加奈子

「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。ある「奇跡」が起こるまでは―。「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさ―直木賞作家・西加奈子の渾身の「叫び」に心揺さぶられる傑作長編!(Amazonより)

 

今まで読んだ筆者の作品とは正反対のような、没個性を望み、自分の存在を消していく主人公が新鮮だった。他者からの見られ方・思われ方を慮りすぎるせいか、感受性・共感能力が高すぎるせいか、出自がそうさせるのか、世界中の悲劇を都合良くも悪くも自分のことのように置き換えてしまう。

しかし、没個性を望みながらも、自分自身の存在価値・理由について幼少期・思春期・青年期を通じて悩み続け、物語を通じてリフレインされる言葉に答えを見つけるラストは感動。

様々な小説を読んで学んだことでもあるけど、当事者じゃなくても、蚊帳の外だとしても、「他者を想像すること」は人間に、生きている人間に与えられた特権であり、世界や他者と繋がる強力な手段なんだと改めて痛感。

「想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う」

 

うまく言葉にできない部分が多いのでまた読み返したい。

 

 

i(アイ)

i(アイ)

 

 

『ひゃくはち』早見和真

天才でも双子でもヤンキーでも落ちこぼれでもない高校野球

 

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『ひゃくはち』早見和真

地方への転勤辞令が出た青野雅人は、恋人の佐知子から意外なことを打ち明けられた。付き合い出すずっと前、高校生のときに二人は出会っていたという。彼は、甲子園の常連・京浜高校の補欠野球部員だった。記憶を辿るうち―野球漬けの毎日、試合の数々、楽しかった日々、いくつかの合コン、ある事件、そして訣別。封印したはずの過去が甦る。青春スポーツ小説に新風を注いだ渾身のデビュー作。(Amazonより)

 

もちろんフィクションだけど、真剣に甲子園を目指している球児たちのストーリーに、普通にタバコと酒が出てきてちょっとしたカルチャーショック。

高校生ながら、監督を嫌いつつも一定の認めはある感じが好感持てる。

最初はどんな感じで進んでいくのか掴みきれなかったけど、途中からの先の文章を目の端にも入れたくないくらいのワクワク感。登場する色んな要素や伏線、事件の原因となりそうな素行を全部シカトして、結局は仲間と野球の物語っていうクソストレートな内容が潔くて良かった。最後のミーティング・監督との面談・8年ぶりの再会と、ラストの感動の押し寄せ方が尋常じゃない。終わり方も清々しい。

自分が知らないだけで、もしかしたら本当にこういうことあるのかも?と思わせてくれる、少し知らない世界の話。

と思ってググってみたら、作者は桐蔭の元高校球児ということは。。

 

 

ひゃくはち (集英社文庫)

ひゃくはち (集英社文庫)

 
ひゃくはち プレミアム・エディション [DVD]

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『神さまたちのいた街で』早見和真

読んで良かった。。

 

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『神さまたちのいた街で』早見和真

父が交通事故に巻き込まれたことをきっかけに、父と母は違う神さまを信じはじめ、ぼくの家族には“当たり前”がなくなった。ぼくは担任の先生に助けを求めたが、どうやら先生にも自分の正義があるらしい。大人たちが信じられなくなったいま、ぼくの「正しい」の基準は、親友の龍之介だけ。妹のミッコを守ることでなんとか心のバランスを取りながら、ぼくは自分の武器を探すことにした。いつか、後悔だらけの大人にならないために―。『ぼくたちの家族』から6年。次の家族のストーリー。あの頃の“痛み”がよみがえる成長の物語。(Amazonより)

 

『イノセント・デイズ』で衝撃をもらった筆者を漁ってみることにした。

ジュブナイル小説としても、宗教をテーマにしたストーリーとしても最高でした。

 

主人公たちも幼く文章も柔らかいのに、冒頭でこれから襲い来るであろう不幸への寒気を感じさせてくれて、また両親を通して文章全体に違和感を感じ、「自分の言葉」とは何かっていうことを疑い始める。

 

新興宗教に対する自分の中の薄気味悪さというか、説明できない悪い固定観念が、文中でうまく表現されていて納得しまくった。父も母も壊れ、窮地に立ち、それぞれが宗教に縋り付いて、元に戻ろうと思えば思うほど泥沼に沈み込み、「家族」が崩れていく。

そんな中でのエルグラーノとマリアとの出会いに、めちゃくちゃ温かみを感じたし、「良かったなー!」と素直に安心できた。その幸運な出会いの中で、エルグラーノが「他者を認められない神さまなんかに価値はない」ってスパッと言い切ってくれることで、どれほど主人公が救われたんだろうと感動した。

 

後半はもはや小学生とは思えない行動・思考をするけど、世間・親に弱くても一振りのカウンンターパンチを見舞わせようとする展開にワクワクした。

宗教に善い悪いの区別があるのではなくて、新興も四大も関係なく、他の宗教(人間)に不寛容になり排斥してしまうことが問題であり、生まれもって与えられた宗教(価値観・考え方)を盲信するんじゃなく、自分の中に疑いの視線を持ち続け、悩んで自分で選択することが大事なんだと、自分自身も多少は持っていたモヤモヤした疑問に対して一つの答えを提示してくれた作品だった。

 

 

神さまたちのいた街で

神さまたちのいた街で

 

 

 

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