やっぱりこのシリーズ大好きだ。
『もういちどベートーヴェン』中山七里
ピアニストの道を挫折した高校生の岬は、司法試験をトップの成績で合格して司法修生となった。
彼は、ベートーヴェンを深く愛する検事志望の同期生・天生高春と出会う。
天生は岬の才能に羨望を抱き嫉妬しつつも、その魅力に引き込まれていき……。
いっぽう、世間では絵本画家の妻が絵本作家の夫を殺害したとして、
妻を殺害容疑で逮捕したというニュースをはじめ、3件の殺人事件を取り上げる――。
それぞれの物語の全貌が明らかになったとき、「どんでん返しの帝王」中山七里のトリックに感嘆する!(Amazonより)
久しぶりの中山七里、岬洋介シリーズだったけど、やはり異次元レベルのスラスラ感。文章にが平易とか癖がまったくないわけではないんだけどなんでだろう。会話と描写のバランスがいいのかな。
司法修習生という、登場人物らも初めての舞台に立たされており、それ故の感情や説明描写が、作者自身が法律や音楽の経験者ではないこととうまく一致している。
そこらへんの作家自身のエピソードについては是非『中山七転八倒』を読んでほしい。
あと別シリーズの主人公・高円寺静が出てくるところもテンション上がる。この作者のシリーズはこういうファンにとっては同窓会的な部分もあるから嬉しい。また、ちょい役なわけではなく物語の軸や転換となるようなセリフを残していて、影の立役者的な感じがした。
特に「仕事の価値は自分以外の人間をどれだけ幸福にできるかで決まる」という言葉は、その後の岬の音楽界へ帰還することを示唆してる気がするし、全国コンクールで天生が発する「法律に従わない者はいても、身体の奥から発せられる快楽に抵抗できる者はいない。」にも繋がるんじゃないかなと思った。
作者の作品には全般的に言えることだけど、制度なんかのしっかりした説明も多いから、「法律とは、司法とはなにか」という本質的なことを問いかけている気がする。それはやはり専門家ではなく部外者として斜めから描写しているからこそかも。また、まきべろくろうの文芸界に対する批判部分なんかは作者の底意地の悪さが際立っている。エッセイや『作家刑事毒島』を読んだ後だと尚更。
事件としてはなんとなく途中から犯人の予想はつくけど、動機や被害者が作品に込めていた真実なんかは全然わからなかったし、そこから茨の道だとしても自分自身を偽らずに再び曝け出すことを選んだ岬に続く物語の流れはベートーヴェン自身のエピソードとも相まって見事だった。
シリーズ次回作が早く読みたい。