『始まりの木』夏川草介

こういう作品に出会うために読書を続けているって思う。

 

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『始まりの木』夏川草介

神様のカルテ』著者、新たなステージへ!

「少しばかり不思議な話を書きました。
木と森と、空と大地と、ヒトの心の物語です」(Amazonより)

 

神様のカルテ』シリーズで普遍的な物語の素晴らしさを教えてくれた作者。

今作も決して派手じゃないし、ドンデン返しもないし、ヒリヒリする駆け引きもないし、爽快な勧善懲悪もない。

でもしっかり心に食い込むものがあり、気づいたらどの本よりも折り目つけたり付箋貼る箇所が多くなってる。

ご褒美みたいな奇跡の瞬間も描かれているんだけど、そこよりもその瞬間までの登場人物たちの日々の積み重ねや、それを受けての咀嚼の仕方にこの作品の素晴らしさが詰まっている。

なぜ民俗学を学ぶのか、日本は日本人はどこに向かっていくのか、何を捨てて何を得てきたのか、神仏にどのように向き合うのか、過去から学び現代に根を張り未来を見据えた幹の太い思考がそこら中に散りばめられている。

日本人にとって神とは信じるものではなく感じるもの、ただ土地の人々の傍に寄り添い見守るだけの存在であり、心を照らす灯台だったという考え方が特に響いた。

かつてないほど混迷を極め、科学や技術に重きが置かれ、いい意味でも悪い意味でも自身の成長にとっての損得が重要視されている現代を生きる自分たちはもう一度シンプルに過去や自然から学び直して繋げていかなければいけないものがあるのだと感じた。

柔らかい美しい世界観の中で極めて現実的な目線で問いかけてくる作風はやはり素敵だし何度も立ち返りたくなる。

 

 

始まりの木

始まりの木

 

 

 

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