2018年読書ベスト
また久しぶりの更新になってしまったけど毎年恒例の読書ベスト。
今年は現時点で125冊。去年もうこんなペース無理(136冊)だと思ったけど案外いけるもんだ。
今回も作者1人につき一冊。ランキングではなく全部おすすめの13冊+α。感想の長さはオススメ度に比例しません。
同じ作者の今年読んだ他のオススメも書いときます。
①『崩れる脳を抱きしめて』知念実希人
作者がこの物語を書いてくれたことに感謝するレベルでぶっちぎりで面白い。
自分が今までミステリーを読んできたことで多少身についた予測能力なんて、全く追いつかないレベルでストーリーが展開・収束され、読み飛ばすか引っかからないか自分が忘れたんだっけっていうような、些細な描写でさえ、終盤で大きな意味を持っってくる爽快さといったら。それぞれの描写の意図が一層深いところにある。
主題以外にも、主人公の家族とか、サブ的要素も読み応えがあって全くダレない。途中は思わず道尾秀介の『シャドウ』みたいな話かなって、錯覚させられた。他にもたくさん、何回も痛快に騙される。
あと知念実希人ファンなら、ニヤッとするような登場人物が最後に出てきてテンション上がる。
プロローグの内容が完全に忘れ、オーラスを迎えて、そうだこんな話だったってやっと思い出すくらいに内容が濃い。プロローグの印象が読むの二回目だと全く違うと思う。
個人的に、生きる意味の正解なんて分からなくても自分で決めればいいってところが、希望はいつでも自分で作るもんなんだなって、心に残った。
この物語に限ったことではないけど、最近色んな小説読んでいると、主人公の年代が近くて、感情移入しやすくなってきている。
本当にみんなに声を張り上げてオススメしたい作品。タイトルもグッとくる。
・他『神のダイスを見上げて』『ひとつむぎの手』
②『オブリヴィオン』遠田潤子
『雪の鉄樹』で食らわされた作者。
今回も冒頭から期待通りに陰鬱で、希望の光なんてほとんど見えてこない。
どんだけ許されないと自分ではわかっていても、さらに追い打ちをかけてくる愛した人たち。罪を背負うことを認め、周りから忘れられたいのに、決して忘却という恩赦は与えられない。
期待通りに終始どん底まで暗く陰鬱で、希望の光なんてほとんど見えてこない。でもこの人の話が大好きなのは、都合良く事態が好転するんではなくて、暗闇でもがきにもがいたからこそ、最後にかすかな光が見えてくるから。
今作は『雪の鉄樹』よりも伏線回収の見事さが際立っていて、全員が他人に言えない悩みや苦しみがあって、それが徐々に解けていくところがめっちゃ良かった。
「開かれた世界は閉じた世界よりも、ずっと地獄だった」とか「真の赦しとは忘れ去られることだ」とか「『いつか』と『今さら』は似ている。どちらも辛い現実から避難する呪文だ」とか、希望だけの明るい話では決して気づかないことがたくさん書かれていた。
特に、「もう空とつながりたくない」とか空の青さが許しではなく苦しみであると表現しているところが、一寸ではなく永遠に続いていくような苦しみを表しているように感じた。
ラストにかけて徐々にどん底の暗闇が薄まってきて、でも全ては元通りにはならなくて、そんな状況でも何度でもやり直せばいいというこの小説唯一と言ってもいいくらいの希望が出てきて、あれだけ嫌いだった空の青さが赦しの色になるという最後が見事でした。
本のデザインもめちゃくちゃ内容と合っていて、かなり大満足な作品でした。
・他『鳴いて血を吐く』
③『神様たちのいた街で』早見和真
主人公たちも幼く文章も柔らかいのに、冒頭でこれから襲い来るであろう不幸への寒気を感じさせてくれて、また両親を通して文章全体に違和感を感じ、「自分の言葉」とは何かっていうことを疑い始める。
新興宗教に対する自分の中の薄気味悪さというか、説明できない悪い固定観念が、文中でうまく表現されていて納得しまくった。父も母も壊れ、窮地に立ち、それぞれが宗教に縋り付いて、元に戻ろうと思えば思うほど泥沼に沈み込み、「家族」が崩れていく。
そんな中でのエルグラーノとマリアとの出会いに、めちゃくちゃ温かみを感じたし、「良かったなー!」と素直に安心できた。その幸運な出会いの中で、エルグラーノが「他者を認められない神さまなんかに価値はない」ってスパッと言い切ってくれることで、どれほど主人公が救われたんだろうと感動した。
後半はもはや小学生とは思えない行動・思考をするけど、世間・親に弱くても一振りのカウンンターパンチを見舞わせようとする展開にワクワクした。
宗教に善い悪いの区別があるのではなくて、新興も四大も関係なく、他の宗教(人間)に不寛容になり排斥してしまうことが問題であり、生まれもって与えられた宗教(価値観・考え方)を盲信するんじゃなく、自分の中に疑いの視線を持ち続け、悩んで自分で選択することが大事なんだと、自分自身も多少は持っていたモヤモヤした疑問に対して一つの答えを提示してくれた作品だった。
・他『小説王』『95』『ぼくたちの家族』『ひゃくはち』
④『i(アイ)』西加奈子
今まで読んだ筆者の作品とは正反対のような、没個性を望み、自分の存在を消していく主人公が新鮮だった。他者からの見られ方・思われ方を慮りすぎるせいか、感受性・共感能力が高すぎるせいか、出自がそうさせるのか、世界中の悲劇を都合良くも悪くも自分のことのように置き換えてしまう。
しかし、没個性を望みながらも、自分自身の存在価値・理由について幼少期・思春期・青年期を通じて悩み続け、物語を通じてリフレインされる言葉に答えを見つけるラストは感動。
様々な小説を読んで学んだことでもあるけど、当事者じゃなくても、蚊帳の外だとしても、「他者を想像すること」は人間に、生きている人間に与えられた特権であり、世界や他者と繋がる強力な手段なんだと改めて痛感。
「想像するってことは心を、想いを寄せることだと思う」
うまく言葉にできない部分が多いのでまた読み返したい。
⑤『桜風堂ものがたり』村山早紀
この作者も今年出会えて良かった。
地方都市の本屋が舞台というだいぶな自分好み。大げさに言えば心に傷を負った目立たないが心優しい書店員である主人公が再び思いやりを投げかけてくれる人たちに囲まれながら再生するまでの話。
『ツバキ文具店』みたいにとにかく丁寧に心を込めて仕事をする姿に心打たれるし、突飛なことではなく、小さくてもできることを真面目に真摯に行って繋げて連鎖していくことで大きな成果となっていく過程がものすごく楽しい。
本当にこういう素敵なことがあってほしいと思うし更に本を好きになれるストーリー。
続編も最高。
・他『星をつなぐ手 桜風堂ものがたり』『百貨の魔法』
⑥『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』Create Media編
評判を聞いて。虐待を受けていた子供達から親への実在する手紙。本当読んで良かった。
それぞれの文章があまり整っていなくて現実味が増す。
想像しきれないほどの壮絶さを感じるのは当然ながら、親に褒めてもらいたかったり恐怖心から突出した結果を出すっていうところがすごいけど悲しいなと。
親からの離れられたとしても、縛られたくないと思い、失った分を取り戻したいとなかなか呪縛は消えないってわかった。
章を経るごとに「気づく」→「戦う」→「出あう」→「変わる」と、それぞれ異なった段階にいる子供からの手紙を読めるから、再生していく過程を文章から感じることができる。
その他にも解説の「大切なのは今日死なないこと」「自由とは、思い通りの方向に成長すること」って言葉が深く心に残った。
どんな環境の人でも何か感じるところはあると思うのでオススメです。
どちらというか女性視点の性描写強めの話のイメージがあった作者だけど、これは見事だった。あとタイトルずるい。
「少年A」自身といろいろな立場からAに人生を変えられた・狂わされた人たちの邂逅の物語であり、それを読者視点というか野次馬というか客観的に見てるんだけど結局やはり狂わされる小説家の話。
善悪のみではないそれぞれの背景や境遇に読み応えがあるし、固執していく様子も理解できる。現在進行形で「少年A」をテーマにした別の小説読んでるんだけど、凶悪犯罪者が罪を償ったあとに更生し社会に溶け込んでいくことの難しさをフィクションながら感じることができる。
その中でも主人公とヒロインが惹かれあうというか共依存していく姿からラストまでが悲しいけどかなり面白い。オーラスのおばさんの狂い具合(多分)はだいぶ心に残る。
この作品読んだおかげで今年は何冊も作者読んだ。
・他『じっと手を見る』『やめるときも、すこやかなるときも』
⑧『なでしこ物語』伊吹有喜
この作者も今年初めて読んでだいぶハマった。
極端に簡単で読みやすい文章ってわけではないんだけど、どんどんストーリーが頭に入ってきて夢中になってページが進む。少年か少女かと言われると少女漫画。
孤独を抱えた境遇は異なる三人が良い意味でも悪い意味でもある種呪われた一族として暮らしていく話。それぞれがどこか閉ざしたような部分が交わったり、関わりのある人たちの熱意によって徐々にほぐれていく様子が心温まるし、でも次々に辛いことも起きるしで、読んでて飽きが来ない。
ラストに大団円を迎えるわけでもなく、かといって続きが明確にあるようでもなく終わりを迎える感じが珍しかった。決して物足りないわけでもなく。
結局この一文を理解することができるだけで十分読む価値がある。
「自立 、かおをあげていきること。自律、うつくしくいきること。」
・他『地の星 なでしこ物語』『彼方の友へ』
⑨『明日の子供たち』有川浩
読書サイトやアカウントでオススメされてて、内容も面白そうなのでずっと気になってたやつ。 本当読んでよかった。ベスト決めないって言ったけど今年ベスト。
多少は福祉に携わっているけど、目から鱗なこと、作中の表現を使えば「価値観が転倒」することや、これからの仕事でも意識しなければいけないことがたくさん書かれていた。「社会的負担ではなく『投資』」っていう考え方がめちゃくちゃ残ってる。
最初は百パー感情移入しきれない登場人物が多いなーって思ったけど、全員がどんどん学んで・発揮して・柔らかくなって・素直になって・悔いが晴れてひとつになっていく交わり具合がすごく良かった。
クライマックスの講演での『砕く』シーンは涙が出たし、最終章のタイトルが予想してた意味よりももっと素敵だった。と、本当に大満足で終われるのに最後の解説でまたテンション上がる。現実世界も捨てたもんじゃないなと思わせてくれる。
本当にいろんな人に読んで欲しい心からオススメしたい物語です。
⑩『ナナメの夕暮れ』若林正恭
山里亮太の『天才はあきらめた』の解説を読んでこの人も文章面白そうと思って読んでみたら、大正解だった。
まず文章が上手い。読みやすいことばっかり書いてあるわけでもないんだけど、ハッとする、自分の頭の何かのスイッチを入れてくれるようなフレーズは拾いやすいし、心象描写のような表現も好き。旅行中のお父さんとの会話なんて思わず感動した。
個人的にも30歳を目前に色々考えることが多くなってきてる現在、周りの意見に左右されず自分の意思を貫くことに多少の迷いもあったりして、作中の「耳が痛いことを言ってくれる信頼できる人を持つこと」って部分がいい意味で一旦冷静にさせてくれた。
悩み抜いてきた人だからこそ結果ニュートラルというか、「その気持ちもわかるよ」ってスタンスの文章が多くて、本当に今の自分に参考になるトピックが多かった。
あとあとがきの「俺はもうほとんど人生は”合う人に会う”ってことで良いんじゃないかって思った。」ってとこに食らった。これからあと十数年たくさん経験・失敗してその域に達したい。
・ 他『社会人大学人見知り学部卒業見込』
11『サイレントブレス 看取りのカルテ』南杏子
本屋で注目されてて気になったやつ。在宅医療の医師が主人公。
医療系や死期が近い登場人物の話はよく読んできたけど、そういうのとは異なる世界観というか、良い意味であっさり死ぬというか死んでしまうということを前提としてその上で何ができるかという話。
医療ドラマというと主人公の医師は病魔に対して諦めないこと・立ち向かっていくことが美徳とされる話が多いけどそうではなくて、文中の言葉を借りると「死ぬ患者に関心のある」「負けを負けと思わない」「死ぬ患者も愛せる」医師に焦点を当てている。
終末期の生き方の選択肢が多様化している現代では、作品に出てくる患者のような選択も「いい死に方」なんだなと感じさせてくれるし、自分が最期を穏やかに迎えられるのであれば主人公のような医師がそばにいてほしいなと思わせてくれる。
解説に載っている作者の『死は「負け」ではなく「ゴール」なのです』という言葉が強く残った。
今年初めて読んだ作者でかなりオススメです。
・他『ディア・ペイシェント』
12『十二人の死にたい子供たち』冲方丁
『天地明察』などが有名なだけど今まで読んでこなかった作者。実写化が気になるのとタイトルに惹かれて。
単純に最後までオチが読めないし、なかなか想像力を膨らませないとついていけなくなりそうで緊張感持てて楽しめた。
各登場人物の心象や境遇・背景の描写が濃くて読み応え十分。
病院を舞台にしているんだけど、階層ごと時系列ごとの登場人物たちの行動とか建物の構造や状況を文章から完全に把握し続けるのは難しいので、実写ではさらに面白さが増すのではと期待。逆に醍醐味である心象風景なんかはどこまで映像に反映できるのかなと。
湊かなえの『告白』みたいに小説も映画も二倍楽しめそうな作品だし、自分みたいに時代劇がメインの作者を敬遠してた人は騙されたと思って読んでみては。
13『時限感染 殺戮のマトリョーシカ』岩木一麻
前作『がん消滅の罠 完全寛解の謎』も面白かったけど今作の方が個人的には好き。医学要素とSF・サスペンス要素がより良いバランスで混ざり合ってて、取り巻く事情・背景のリアルさを感じながら、知らなかった知識を学びながら物語に没頭できる。
語弊があるかもだけど割と頭でっかちと言うかトリックなどの理論的な面白さで終わるのかと思いきや、それを上回る感情や誰かを想うゆえの動機に大満足。
結局中身は悪魔ではなく希望だったというラスト部分の表現が特に好き。
※番外編(シリーズ物)
『天久鷹央』シリーズ 知念実希人
まだ完結してないけどとりあえず既刊シリーズは全部読み終えた。
最初は「THE・天才変人」とそれに振り回される助手の構図の面白さとSFじみてるけど医学的に説明が着く爽快感が癖になったけど、シリーズが進むにつれて主人公の欠落が人間臭いお人好しな助手を介して埋まっていく補われていく人間ドラマにヤられる。今後もずっと続いて好奇心満たしてほしい。
『書店ガール』シリーズ 碧野圭
ドラマは見てなかったけど気になって読み始めたらどハマりした。
女性たちが主人公でそれぞれの立場・年代で厳しい現状の書店業界でどう生き残っていくか。でも決してミラクルを連発するのではなく丁寧なひたむきな仕事を地道にこなしていく姿に心打たれるし本屋さんで働きたいと思わせてくれる。
現代の本を取り巻く多様な要素が凝縮されてるし、全てが円満に終わるわけでもなく苦味が残したまま終わる感じも良い。
原田マハの仕事系の話好きな人にオススメ。
以上。全体的にミーハーだけど医療・本関係の作品を多く読んでた。来年ももっと幅広げて色んなの読みたいのでオススメ待ってます。