『今夜、すべてのバーで』中島らも

親父からの手紙を思い出した。

 

f:id:sunmontoc:20190322005210j:plain

『今夜、すべてのバーで』中島らも

薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような…。アルコールにとりつかれた男・小島容が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。(Amazonより)

 

先月の誕生日に好きな本をプレゼントしてもらえる機会があり、どうせなら一生残りそうな本をもらいたいと思い、悩みに悩んでこれを。名前しか知らなかった人。

あらすじを読んでるとエッセイ要素が強いのかなと思ったら、しっかり読ませてくれる物語で、起承転結がわかりやすかった。

膨大な調査に基づいているんだろうけど、作者の実体験も入っているだろう症状やフラッシュバックや酒に対する溺れ方の描写がリアルで、ブラックアウトしょっちゅう起こす身としてはしっかり恐怖感もらった。

1994年発行だけど文章も今読んでも全然違和感なく、文や会話のリズムが良くてスラスラ入ってくるし、心に残る部分や感心する部分が多い。

「時代や国が変われば、依存するモノが変わってくる」的な部分がタイムリーだなと文章の普遍性ってすごいと思った。『”依存”ってのは人間そのもの』。

あと「年寄りは若者のためにあえて無知なふりをしている」という部分も、若者半分卒業した年齢だから共感するし、老害にならないように必要なことなんだよなと感じた。

他にも本筋とは関係ないけど、3Dプリンタの概念が出てきてて、科学の進歩すごい。

最後に福祉・医療分野の専門的なアプローチが描かれていて、こういう文章って割と冷めることが多いんだけど、担当分野でもあるからってのもあるけどしっかり読んで楽しめた。

 

自分も何割かはアルコール依存症予備軍だと思うし、親父はアル中からの10年ぐらい断酒中なので身に滲みまくりだった。アルコールに限らず依存症ってのは綺麗に終結を迎えることはなくて、何回も何回も反復しながら戻りながら、個人ではなく家族やチームで取り組んでいかなければならないことなんだなって学べたし、もう少し年取ってからまた読み返したら受け取り方も恐怖感も違いそう。

タイトルの意味がラストにわかるんだけど、オシャレすぎる。

 

 

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)