『高校事変Ⅴ』松岡圭祐

他者と繋がる人間としての、迷いが覚悟に変わった物語。

 

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『高校事変Ⅴ』松岡圭祐
武蔵小杉高校事変で優莉結衣に救われた濱林澪はショックから不登校になっていた。編入の下見のため訪れた農業高校で教師たちの振る舞いに異常を感じた澪は結衣に助けを求める。事変以来の再会だった。優莉匡太亡き後の秩序再編をもくろむ半グレ組織、そして匡太の子たちを追い込むためには非常手段をも辞さない公安警察。国家規模の陰謀が新たな戦いを引き起こす。その渦中で、結衣はあまりにも意外な人物と遭遇する…。

序盤から、予想していなかった勇次との会話。そこで芽生える新たな心のゆらぎ。そのゆらぎや今までの戦いを経て根付いた迷いが、自分を信じてくれる澪や沙津希の存在を通して固い信念に変わることが、今作の大きな要素。シリーズを一区切りして、また大きなターニングポイントになってくる。

テンションメーター振り切れっぱなしアドレナリン溢れまくりの攻防や、身近な日常的にあるモノを用いた戦闘方法での男心くすぐるワクワク感は今作も言わずもがな。LINEの位置情報機能とか、当然に持っている機器の普段使いこなせていない機能を駆使するところなんか、非現実な状況といえど読み手との共通項を示してくれて、登場人物たちをかけ離れた存在にさせすぎない楔みたいな役割もある気がする。

裏も表も関係なく優莉結衣という存在へのなりふり構わなさが増していて、これでもかと人間の汚い部分が出ていて憎らしく最高だった。

また結衣はあまり焦りを表には出さないけど、澪が不安がることによって状況の不利さや劣勢ぶり、緊迫具合が伝わってきて見事だった。

今回ばかりは深い痛手を負って終わるのかと思ったら、序盤・中盤の何気ない描写を見事に決着への伏線として回収していて爽快だった。

ほかの兄弟の存在、新たな強敵の登場、倒すべき敵として改めて立ち向かう田代親子など、今後の戦いが待ち遠しいし、成長した結衣のこれからの人間としての変化も楽しみで仕方ない。

早く3月発売の『高校事変Ⅵ』が読みたい。

 

 

高校事変 V (角川文庫)

高校事変 V (角川文庫)

 

 

 

高校事変 VI (角川文庫)

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