『壁の男』貫井徳郎

あんな感動の結末が待っていたとは。

 

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『壁の男』貫井徳郎

ある北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。
その、決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男、
伊苅(いかり)に、ノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが……。
彼はなぜ、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか?(Amazonより)

 

冊数そんなに読んだわけじゃないけど、この作者には怖いもの見たさ的な中毒性があると思っていたけどこの作品もそうで、しかしそれだけではなく最後には救いを感じる内容だった。

冒頭から主人公である伊苅が置かれている状況やこれまでの経験が徐々に明かされていくといった流れで、なぜ街中の壁に絵を描くようになったかということが、ライターの「私」の視点を中心に追体験する。

いつもの作風であれば、ミステリー要素が強い感じかなと思っていたら、どうやらそうではなく純粋な悲しみと許しの物語なのだと途中から気づいていき、終結が想像できず楽しみが増していく。

主人公が幼少期から経験した妬み・劣等感・憎しみ・悲しみを段々と把握していき、最終章前には「こういうことだったのか」と理解した気になるんだけど、まさかの展開。

友人の生まれてくる子供の名前の候補を知った時の驚きと言ったら。全てがひっくり返された。

そこから既に知っている未来を考えた時に芽生える、そんな悲しいことがあっていいのかという気持ちと、ラストの少女が主人公に与えるかすかな希望に飛距離があって、悲喜入り交じった感情で読み終えた。

読み手の感情をどんどん撹拌させてのめり込ませてくれる傑作。

 

 

 

壁の男 (文春文庫)

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