『1ミリの後悔もない、はずがない』一木けい

恋愛小説を飛び越えて人生だった。

 

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『1ミリの後悔もない、はずがない』一木けい

「俺いま、すごくやましい気持」。ふとした瞬間にフラッシュバックしたのは、あの頃の恋。できたての喉仏が美しい桐原との時間は、わたしにとって生きる実感そのものだった。逃げだせない家庭、理不尽な学校、非力な子どもの自分。誰にも言えない絶望を乗り越えられたのは、あの日々があったから。桐原、今、あなたはどうしてる?―忘れられない恋が閃光のように突き抜ける、究極の恋愛小説。(Amazonより)

 

第一章の回想の入り方から独特で、とりわけ現在に不満を持ったり絶望しているわけでもなく、かといって懐かしがりすぎるわけでもなく、主人公の性格も相まって過去のほんの一瞬を振り返る感じがした。

思春期特有の、異性の体の変化を異物的な視点で捉えながらも惹かれていく感情の高まり方と、困窮している家庭事情の中でも淡々と気丈に日々をやり切っていく姿が対照的で、読み手として感情をどっちに置けばいいかわからず振り回される。

そして回想から現実に戻った際に、唐突に過去の幸せな時間の終わりを告げられてしまう。

その後は篇ごとに視点が変わるんだけど、あの主役の女の子はどうなってしまったのか、今は幸せなのかと気になってしまう。

本軸とはそれほど関係はないサブエピソードもあるけど、どん底に見えるような主人公の境遇だけど、数少ない支えてくれる、身を委ねられる人物の存在をしっかり感じ取ることができて、恋愛小説というより人生を感じさせてくれる物語だった。

そして最後は、今更知っても後悔してしまうようなことかもしれないけど、自身の状況ではなく周囲の想いから自分は幸せだったし、そのことだけでこれからも幸せに生きていけると感じさせてくれる完璧な終わり方だった。

刹那的な感情かもしれなかったけど、一生携えていける大切なものに気づかせてくれる素晴らしい作品。

初めて読んだ作者だったけど他の作品もいろいろ読んでみたい。

 

 

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない