『明け方の若者たち』カツセマサヒコ
これは年間ベストに入る。
『明け方の若者たち』カツセマサヒコ
明大前で開かれた退屈な飲み会。そこで出会った彼女に、一瞬で恋をした。本多劇場で観た舞台。「写ルンです」で撮った江の島。IKEAで買ったセミダブルベッド。フジロックに対抗するために旅をした7月の終わり。世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は、“こんなハズじゃなかった人生”に打ちのめされていく。息の詰まる満員電車。夢見た未来とは異なる現在。高円寺の深夜の公園と親友だけが、救いだったあの頃。それでも、振り返れば全てが美しい。人生のマジックアワーを描いた、20代の青春譚。(Amazonより)
作者の年齢や舞台となる年代が近かったので自己投影がものすごかった。
20代前半で「何者」かに憧れ、現実の壁にぶつかり、挫折し、どこかに自分なりの活路を見痛そうともがく様は東京で過ごしたことがある大人は大抵が経験するのではないか。
その甘くも苦い2番目の青春時代というべき時に出会った魅力的な相手。多数とは異なる共通項を見つけたり、シンパシーを感じて高揚していく感じが懐かしかった。
そして舞台は高円寺。この物語の中には、俺が憧れ嵌り消費した高円寺がこれでもかと描かれていた。
また文章もユニークだし、出てくるトピック、特に曲がドンズバ。アルミ缶のぶつかる音を「ベン」と表現するところ、ハイボール派としてはひどく共感する。そして最終章でチョイスする曲が『ハイブリッド・レインボウ』って最高すぎだろ…。
流れ自体も、甘く楽しみが溢れている前半から徐々に陰りを垣間見るようになり、第五章で急転し、そこからの苦しみともがき、とスピード感を持って読める。
他にも伝えたいことはいろいろあるけど、状況は違えど多くの人が「これは自分の物語だ」と思えるのではないだろうか。
引っかかる文章がめっちゃ多いし、またこの空気感を味わいたいので、一生本棚に残しておこう。