『犬がいた季節』伊吹有喜

久しぶりの伊吹有喜はやっぱりものすごかった。

 

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『犬がいた季節』伊吹有喜

ある日、高校に迷い込んだ子犬。生徒と学校生活を送ってゆくなかで、その瞳に映ったものとは―。最後の共通一次。自分の全力をぶつけようと決心する。18の本気。鈴鹿アイルトン・セナの激走に心通わせる二人。18の友情。阪神淡路大震災地下鉄サリン事件を通し、進路の舵を切る。18の決意。スピッツ「スカーレット」を胸に、新たな世界へ。18の出発。ノストラダムスの大予言。世界が滅亡するなら、先生はどうする?18の恋…12年間、高校で暮らした犬、コーシローが触れた18歳の想い―。昭和から平成、そして令和へ。いつの時代も変わらぬ青春のきらめきや切なさを描いた、著者最高傑作!(Amazonより)

 

連作短編集みたいな形で全章文句なしで良いんだけど、はじまりの第一章を読見終わった瞬間の充実感と言ったら。

 

犬のコーシローを支点にして、高校3年生という何物にも代えがたい、子供から大人へと一歩進む瞬間を切り取ることで、思春期の輝きや葛藤、これから待ち受けているであろう人生の苦難への恐れなど、様々な感情が増幅されている。

 

そして、やっぱりこの作者は人物の感情の背景や裏側というか、表には出さない部分の描写がめっちゃわかりやすいし、グッと来る。第一章の最後のコウシロウなんて本当に切なくていじらしくて、それでもしっかり一人の人間として立っている強さも伝わってきて、これからあと何回かこの体験をできるのかと思うと多幸感に満ち溢れた。恋愛の儚さと尊さも、人生と人間関係の少しの苦味を伴った面白さも、多くの感情体験を与えてくれる。

 

あともう一つの側面として、昭和のケツから令和のアタマまでの約30年間の、日本の移り変わりも表現されている。自分自身が昭和63年世代ってのもあるけど、様々な文化や出来事があったんだなってことを実感する。しかも、高校3年生というずっと30年間変わらない年齢層から切り取って表現されているため、ふつうの追体験や自分が経験してきた感覚とはまた違ったふうに感じることが出来て面白かった。でもやっぱり、1995年の阪神淡路大震災地下鉄サリン事件の衝撃はものすごいなってことを改めて感じたし、受験生という立場で考えたら人生の岐路にも影響出てくるよなってことを知ることができた。

 

本当に各登場人物が魅力的だし、その魅力の根源にある感情の揺らぎ方の描写も見事で、そして繋っていくストーリーも最後の最後まで幸せに満ち溢れていて、読後の充実感と満足感は今年一番だった。

本屋大賞ノミネート作品は四作しか読んでないけど、どれが受賞するか楽しみ。

 

 

犬がいた季節

犬がいた季節

 

 

 

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