『春、戻る』瀬尾まいこ

じんわり大切なことを教えてくれる。

 

f:id:sunmontoc:20210508063851j:plain

『春、戻る』瀬尾まいこ

結婚を控えたさくらの前に、兄を名乗る青年が突然現れた。どう見ても一回りは年下の彼は、さくらのことをよく知っている。どこか憎めない空気を持つその“おにいさん”は、結婚相手が実家で営む和菓子屋にも顔を出し、知らず知らずのうち生活に溶け込んでいく。彼は何者で目的は何なのか。何気ない日常の中からある記憶が呼び起こされて―。今を精一杯生きる全ての人に贈るハートフルストーリー。(Amazonより)

 

激しい感情の起伏が見受けられず、飄々とこなしていく様子が、著者の作品の好きなところなんだけど、その要素が特に色濃く感じられる。

複雑な家族関係もありそうにないのにいきなり「年下の兄」が登場し、最初は戸惑いながらも割とすんなり受け入れて関係を築いていく主人公たち。

そしてその出自が明らかになっても、その関係性に物語の重きが置かれているのではなく、主人公が閉ざしていた記憶の扉を開けて過去の自分と清算するキッカケとなる。

スラスラ読めるし、もしかしたら物足りないなって感じることもあるかもしれないけど、飾らないふたつの大切なことを学んだ。

 

「別に正確に思い出す必要なんてないわよ。お父さんがいた事実さえ残っていれば、どれを思い出そうが、思い出がねじれようが、どうでもいいじゃない」

 

「思い描いたとおりに生きなくたっていい。つらいのなら他の道を進んだっていいんだ。自分が幸せだと感じられることが一番なんだから」

 

肩肘を張りすぎずに自身に出来る範囲で精一杯やりきることの重要性みたいなものを感じた。

主人公と共に闖入者に戸惑い、クスッと笑えて、大切なことはじんわり心に残る、春の空気感を切り取ったような作品だった。

 

 

春、戻る (集英社文庫)

春、戻る (集英社文庫)

 

 

 

sunmontoc.hatenablog.com

sunmontoc.hatenablog.com

sunmontoc.hatenablog.com

sunmontoc.hatenablog.com