『ひと』小野寺史宜

確信に変わった一冊。

 

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『ひと』小野寺史

たった一人になった。でも、ひとりきりじゃなかった。

両親を亡くし、大学をやめた二十歳の秋。
見えなくなった未来に光が射したのは、
コロッケを一個、譲った時だった――。

激しく胸を打つ、青さ弾ける傑作青春小説!(Amazonより)

 

順番逆になっちゃうけど、『まち』を読んで惹かれ始めた作者。これも間違いない面白さだった。

 

確かに『まち』に比べると、「ひと」そのものに焦点がより絞られている。

でも愛憎・怨嗟・悲喜渦巻く人間関係だったりするのではなく、いやできごとと関係自体は決して軽いものではないんだけど、その重さではなくそれを通過点とした流れを表現することに軸がある気がする。

経験をもとにどう生きていくか、関係が徐々に太くなりながら、でもそこに縛られるのではなく、どういう網みたいなものを築いていくか、印象的な出来事にとらわれずにあくまで滑らかに進んでいく物語に夢中になっていく。

 

また、主人公と関わっていくひとたちも、良くも悪くも人間臭くて純粋で好き。

特に督次さんが言うこのセリフがこの世界観の魅力をすごく表している。

「まずな、ウチのだからうまいわけじゃない。コロッケってもんがうまいんだ。そのコロッケをつくる。それだけだな」

 

横道世之介』シリーズにも似た、この淡々と滑らかに進んでいくけれども、自然と主人公に惹かれていくこの感じ、「この作者好きかも?」が確信に変わった一冊。

流れ行く経験や時間の中で、主人公がどう生活していくか、続編を読みたくなること間違いなし。

「大切なのはものじゃない。形がない何かでもない。人だ。人材に代わりはいても、人に代わりはいない。」