『水を縫う』寺地はるな

めちゃくちゃ好きな話だった。

 

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『水を縫う』寺地はるな

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。(版元.com)

 

評判が気になって、初めて読んだ作家さん。面白さがジワジワ伝わってきて読み終わる時の満足感と言ったら。

世間の「普通」との対峙の仕方や抗い方は人それぞれで、強く反発することだけが大切なのではなく、静かに自分の居場所や生き方を守り抜く人たちもいるんだってことを感じさせてくれる。

それは大仰な言い回しや印象的なメッセージに込められるのではなくて、サラッとした文章にじんわりと示されている。

 

”見えない部分に薔薇を隠し持つのは、最高に贅沢な「かわいい」の楽しみかたやろ”

 

”でも、今からはじめたら、八十歳の時には水泳歴六年になるやん。なにもせんかったら、ゼロ年のままやけど”

 

”好きなことと仕事が結びついていないことは人生の失敗でもなんでもないよな、きっと”

 

無意識に「普通」という概念に絡め取られてしまうことは誰にでもあるけど、この物語はそこからの脱出の仕方や、その枠外で生活していくことのヒントがふんだんに表現されている。

 

また、似ている話ってわけではないけど、どこか清涼感というか穏やかさの中に鮮烈さを感じるところが、『僕は、線を描く』と通じるものがある気がする。

 

この読み口は癖になりそうなんで、たくさん漁っていこう。