『時をかけるゆとり』朝井リョウ

この人の面白さの真髄を見た気がする。

 

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『時をかけるゆとり』朝井リョウ

戦後最年少直木賞作家の初エッセイ集
就活生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。この初エッセイ集では、天与の観察眼を駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。『学生時代にやらなくてもいい20のこと』改題。"圧倒的に無意味な読書体験"があなたを待っている!?(Amazonより)

 

『桐島〜』で知り、『何者』で信用度がめちゃくちゃあがり、小説はほぼ全読している作者。

 

年齢がひとつ下で同世代ということもあり、ふとした心象描写や自身の考え方など共感できる部分が多い。

 

ここ数年、好きな作家のエッセイは大抵面白いという当たり前の法則を発見し、伊坂幸太郎、中山七里、西加奈子など読んできたけど今回も間違いなかった。

 

エピソード自体は想像以上に些細かつくだらない。ほんと想像以上に。「あれ、朝井リョウってこんなにたりてないの?」て思うはず。DJ松永と仲いいのもそりゃ納得する。

そのしょうもないエピソードの中には、同じ時代を生きてきたこともあり、「あーあったなそんなこと…」と苦笑い混じりに思ってしまう流行りやその年齢特有のイキリや思考、妬み嫉み、卑屈さが含まれていて、自分の恥ずかしい部分を見せつけられているような気分にもなる。

 

そしてそれらを、天賦の文章力とユーモアで昇華させてしまうからタチが悪い。ほんとにカフェや電車で読む時は注意したほうがいい。ふとした瞬間にニヤニヤと噴き出しに

襲われるから。

 

文章の流れでも、フリとオチとツッコミが行間的にわかりやすく配置されていて、何度も押し寄せる波に期待がどんどん高まっていく。ほんとツッコミうまいし、そのときの冷めたな視点がなんとなく観音クリエイションに似ている気がする。

 

作品ではブラックユーモアは見られるけど、ここまで笑いの才能が溢れているとは思わなかった。そういう終始くだらない物語も読んでみたいな。

 

また作者の信頼がぐっと高まった一冊だった。

 

 

時をかけるゆとり (文春文庫)

時をかけるゆとり (文春文庫)