『常識のない喫茶店』僕のマリ

最高な読書体験だった。

 

『常識のない喫茶店』僕のマリ

「働いている人が嫌な気持ちになる人はお客様ではない」
――そんな理念が、この店を、わたしを守ってくれた。

失礼な客は容赦なく「出禁」。
女性店員になめた態度をとる客には「塩対応」。
セクハラ、モラハラ、もちろん許しません。

ただ働いているだけなのに、
なぜこんな目にあわなければならないのか。
治外法権、世間のルールなど通用しない
異色の喫茶で繰り広げられる闘いの数々!
狂っているのは店か? 客か?
あらゆるサービス業従事者にこの本を捧げます。

喫茶×フェミニズム――
店員たちの小さな抵抗の日々を描く、
溜飲下がりまくりのお仕事エッセイ!(版元.comより)

 

 

誰かがエッセイで出てきたので気になって(こだまさんのかな?)。

読み終わったら誰かにオススメせずにはいられない作品だった。そしてこれをオススメできる人とのつながりは大切だと思う。

胸がすくような爽快な痛快なエピソードや、働くこととりわけ接客業について改めて考えさせられることが満載。

「失礼な客は出禁」、トンデモな方針のように思えるけど、仕事に消費されず自分たちを守るためにはそれはとても大切なことであって、本当は当たり前であるべきことなんだとも感じる。そこに少しの躊躇を覚えてしまうのは、多少なりとも自分も社会に良くも悪くも慣れてしまっているからだと思う。

また痛快さだけではなく、「自分もこういうふうに思われているんじゃないか」と思うと、意識してなかった接客を受ける側としての態度も考え直してしまう。タバコ買うとき番号しか言わない時あったり。。

伝え切れないほどの魅力がたっぷりなのでぜひ読んでほしいし、一生本棚に置いておきたい一冊。

あとやっぱり、少し怖いけどこの喫茶店行ってみたいな。

 

 

 

『とんび』

軽い絶望を覚えてしまった。

 

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『とんび』

直木賞作家・重松清のベストセラー小説を、阿部寛北村匠海の共演で実写映画化。「糸」「護られなかった者たちへ」の瀬々敬久監督がメガホンをとり、幾度途切れても必ずつながる親子の絆を描き出す。昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。運送業者のヤスは愛妻の妊娠に嬉しさを隠しきれず、姉貴分のたえ子や幼なじみの照雲に茶化される日々を過ごしていた。幼い頃に両親と離別したヤスにとって、自分の家庭を築くことはこの上ない幸せだった。やがて息子のアキラが誕生し、周囲は「とんびが鷹を生んだ」と騒ぎ立てる。ところがそんな矢先、妻が事故で他界してしまい、父子2人の生活が始まる。親の愛を知らぬまま父になったヤスは仲間たちに支えられながら、不器用にも息子を愛し育て続ける。そしてある日、誰も語ろうとしない母の死の真相を知りたがるアキラに、ヤスは大きな嘘をつく。(映画.com)

 

原作の小説は人生ベスト3に入ってるし、TBS版のドラマも大好きだったので、めちゃくちゃ期待値高めて公開早々鑑賞。

不朽の名作なのであえて物語を振り返ることはしないけど、ありえないくらい泣いた。ほぼずっと泣いてた。人生で何かを体験してこんな泣いたことない。嗚咽出そうになりながら咽び泣いた。最終的に自分で自分に引くほど泣いてた。俺ってこんなに泣けるんだと驚いた。

個人的な経験値として、何かの言葉がきっかけで揺さぶれることはあったんだけど、それだけではなく、映像のみでそれまでのストーリーや感情の積み重ねがフラッシュバックして感極まるってことが初めてのような気がして新鮮だった。

暑苦しいヤッさんも優しいけどどこか冷静な一面を持っている旭もバッチリハマっていて、脇を固めるキャストも間違いなかった。照雲の新しい解釈が面白かった。

最初から最後まで文句なしだったけど、ドラマ版の特に好きなシーンである、健介が家出した後の海のシーンがなかっことだけが少し残念だったかな。あれって原作にはないオリジナルだったのかな?

昨日は大満足で映画館をあとにして、幸福感に包まれていたけど、今日になってこれからの人生でこれほど泣いて揺さぶられる体験はもはやないんじゃないかと思い始めてきて、軽い絶望感を覚えている。

とにかく老若男女問わず、どの世代にも響く力を持っている傑作だと思う。

 

 

 

 

『佐久間宣行のずるい仕事術』佐久間宣行

いい意味で甘い期待を裏切られた。

 

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『佐久間宣行のずるい仕事術』佐久間宣行

サラリーマンでありながら、「オールナイトニッポン0」のラジオパーソナリティをつとめ、ファンイベントを行えばリアルで5000人が集まってしまう、45歳のフツウのようでフツウじゃない、いま話題の佐久間宣行が教える、誰とも戦わず、好きなことで効率的に成果を出す62の仕事術。(版元.comより)

 

普段のラジオからも、前作のラジオ本『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』からも、パブリックイメージというか、いつものガハハ笑いで楽しく、そして社会を生き抜くためのエッセンスや家族愛を多分に含んだエピソードから滲み出るあたたかい印象を受けていたけど、今作ではその安易なイメージをいい意味で裏切られた。

それは、その穏やかな印象の裏で、というか裏ではなくそれと併せ持って、テレビ業界を20年以上生き抜いてきた仕事人としての整然とした理論と考え方、行動力から形成されるある意味ではゾクッとした寒気すら感じるものである。

もちろん本人はたくさんの苦労を乗り越えて今の仏のような境地に達したんだろうけど、その戦略や方法は社会人なら流されがちな弱さや甘さ、同僚や仕事とのなあなあな関係性を徹底的に排除したものであり、今の自分が全て当てはまってすぐ取りかかれるかと言われるとだいぶ自信がない。そういう意味では共感度は思ってたよりも低めだった。

それでも現状でも響いたり心がけられる部分はたくさんあった。

 

”組織にいるうえで、不機嫌でいるメリットなど一つもないのだ”

”大切なのは相手に勝つことではなく、障壁なく仕事ができる環境を手に入れること”

”コミュニケーションは「最短距離」より「平らな道」を行くことだ”

”「コント:嫌いな人」でバトルを避ける”

”上司と部下は対等な関係だ”

”陰口が自分の耳に届いたとき、それでも自分の意志を貫ける人だけが、やりたい仕事に取り組める”

”自分の「得意」は「努力の割に評価されること」の中にある”

”運は愛想と誠実さによって架けられた「信用」という名の橋を渡ってやってくる”

”天才じゃなかったらやめるのか?好きだからやってるんだろ

 

もちろん、ここに書かれているのはあくまで方法で目標ではないけれども、それを意識実践しながらやり抜いていけるように少しずつ何かを変えて継続していきたい。次に読む時には響く部分が増えているように。

 

 

 

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『水を縫う』寺地はるな

めちゃくちゃ好きな話だった。

 

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『水を縫う』寺地はるな

松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。(版元.com)

 

評判が気になって、初めて読んだ作家さん。面白さがジワジワ伝わってきて読み終わる時の満足感と言ったら。

世間の「普通」との対峙の仕方や抗い方は人それぞれで、強く反発することだけが大切なのではなく、静かに自分の居場所や生き方を守り抜く人たちもいるんだってことを感じさせてくれる。

それは大仰な言い回しや印象的なメッセージに込められるのではなくて、サラッとした文章にじんわりと示されている。

 

”見えない部分に薔薇を隠し持つのは、最高に贅沢な「かわいい」の楽しみかたやろ”

 

”でも、今からはじめたら、八十歳の時には水泳歴六年になるやん。なにもせんかったら、ゼロ年のままやけど”

 

”好きなことと仕事が結びついていないことは人生の失敗でもなんでもないよな、きっと”

 

無意識に「普通」という概念に絡め取られてしまうことは誰にでもあるけど、この物語はそこからの脱出の仕方や、その枠外で生活していくことのヒントがふんだんに表現されている。

 

また、似ている話ってわけではないけど、どこか清涼感というか穏やかさの中に鮮烈さを感じるところが、『僕は、線を描く』と通じるものがある気がする。

 

この読み口は癖になりそうなんで、たくさん漁っていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの夜を覚えてる』

観終わった後の多幸感。

 

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『あの夜を覚えてる』

“君が踊り、僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれるー”

1967年のとある夜に始まった「オールナイトニッポン」。

楽しかった夜、寂しかった夜、不安な夜。

どんな夜もラジオから聴こえてくる声は、すぐ側にあった。

2022年。55年の月日が経ったある夜。

今宵も「オールナイトニッポン」の放送が始まる。

キューが振られ、パーソナリティがカフを上げれば、

真夜中のブースが、ラジオの前のあなたと繋がる。

しかしその番組には、誰にも言えない秘密があったー。

 

舞台は有楽町、深夜のニッポン放送

すべてのラジオリスナーに贈る「あの夜」の物語。

 

ラジオ好き、オールナイトニッポン好き、佐久間宣行好きとしては見逃せない作品。

生ドラマって方が合ってるかもだけど、初めて演劇を観た。

感想としては、ただただ「ラジオ好きで良かった」と心から思える幸福感に溢れる140分だった。

ラジオ局をそのまま舞台にした生配信っていうのも面白くて、企画自体のワクワク感・ヒリヒリ感もすごく良かったけど、シンプルに物語としてとても好きだった。

リスナーとしてのラジオ愛、盲信、美化しすぎてしまっているが故のショック、それでも結局はパーソナリティの人間性にどうしようもなく惹かれてしまっていることを自分含め観た人は再確認したんじゃないか。

またそのこととは対照的に、もちろんフィクションなんだけど、届ける側の現実と追い求める理想の間での苦悩や努力、喜びを知れてとっても良かった。流れゆくものであるため、聴いている時は楽しみが先行してしまい、裏側のことまで思いを巡らす機会って中々ないから。

各パーソナリティのちょっとした出演や仕掛けもグッと来て、特にやっぱり星野源の歌が、現在のオールナイトニッポンにおける必要不可欠であることを改めて思い知らされた。

 

”音の中で 君を探してる 霧の中で 朽ち果てても彷徨う

闇の中で 君を愛してる 刻む 一拍の永遠を

歌の中で 君を探してる 波の中で 笑いながら漂う

今の中で 君を愛してる 刻む 一拍の永遠を 刻む 一粒の永遠を”

 

音楽への想いを綴ったものであるとはわかってはいるけど、劇中ではラジオという電波を通してリスナーに向けられたなにかであるように感じてしまった。

 

そして、ディレクター役の方もミキサー役の方も、髙橋ひかるも良かったけど、今まで知らなかった千葉雄大の凄さをこれでもかと見せつけられた。第一幕のパーソナリティとしてもがきがらも精一杯やっている感じもいいけど、やはりラストの部分。生放送であれだけの感情の発露を見せられると否が応でも受け手は揺さぶられるものがある。

 

ラジオ好きはもちろん、仕事への矜持という部分ではラジオに興味がなくても、たくさんの要素や仕掛けが詰め込まれたエンタメとしても最高な作品なので是非観てほしいし、DVD化してほしい。

 

 

 

 

『ひとまず上出来』ジェーン・スー

このエッセイも響いた。

 

『ひとまず上出来』ジェーン・スー

重ねる歳はあるけれど、明けない夜はないはずだ。

CREA連載「●●と▲▲と私」に加え、SNSで話題沸騰の推しエッセイ「ラブレター・フロム・ヘル、或いは天国で寝言。」、
楽しいお買い物についての書きおろしも収録。
いまの自分の「ちょうどいい」を見つけよう、最新エッセイ集!(版元.comより)

 

最初は寝る前に少しずつ読んでたからあんまり頭に入ってこなかったけど、まとめて読み始めたら共感したり響いたりする箇所が多くどんどんのめり込んでいった。

もちろん著名人なんだけどちょうどいい塩梅というか、一般人の感覚もバランス良く持ち合わせているから市井のあるあるというか思わず首を縦に振りたくなる文章が多い気がする。

そしてそのバランス感覚は自身の得意な・平穏が約束されているテリトリーを超えて発揮されていて、自身含め周りの耳が痛くなるような考え方もしっかり表現されている。

 

”肉体にしろ精神にしろ、変わるも変わらないも本人の自由。しかし、自分の身を粗末に扱う自暴自棄と不足があってもそれで良しと自己受容する朗らかな諦観はやっぱり別物で、その違いは「自分のことを好きか」ではなく、「自分に好きなところがあるか」なのかもしれません。”

 

”最近にとみに思うのは、正義と仲間の相性の悪さです。仲間と呼ばれる関係性では、時に公正な判断が鈍くなる。”

 

”家庭、職場、恋愛でそんな役回りばかりと感じるなら、押しつけられた役なのか、手放せない役なのか、一度じっくり考えてみる必要がありそうです。”

 

特に「私はちょっと怒っているんですよ」と「昔の私に教えてあげたい、夢の叶え方」については、個人的なボヤっとした救いというか、表現できないけどこういう側面の考え方もあったら助かるよなっていうものが、めちゃくちゃわかりやすく言語化されていて読んでいてすごく気分が楽になった。

著者の文章にどんどんハマってきたので、エッセイやラジオ漁ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いのちの車窓から』星野源

単行本も読んでたけど文庫版も。

 

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『いのちの車窓から』星野源

星野源が、雑誌『ダ・ヴィンチ』で2014年12月号より連載スタートした、エッセイ「いのちの車窓から」。
第1巻となる単行本は2017年に刊行し、ベストセラーに。
【累計42万部突破】となる大人気エッセイ集、待望の文庫化!
ドラマ「逃げ恥」、「真田丸」、大ヒット曲「恋」に「紅白」出場と、
2014年以降、怒濤の日々を送った2年間。
瞬く間に注目を浴びるなかで、描写してきたのは、
周囲の人々、日常の景色、ある日のできごと、心の機微……。
その一篇一篇に写し出されるのは、星野源の哲学、そして真意。
文庫版では、カバーを新装&10ページ(エッセイ約2本分半に相当)にわたる、長い「文庫版あとがき」を新たに収録!(版元.comより)

 

出張のお供に持って行ったんだけど、偶然にもあとがきにも書いてあるように、旅に出たりした時に読みたくなる心地のいい文章だった。

追っている作家や芸人、ミュージシャンのエッセイを読むのが好きだけど、読んだ後に本業を味わいたくなるというか、とりわけエッセイと作品の相乗効果がものすごく高いと思う。

単行本の時は、作者自身の創作の苦悩や下積み時代の話に目が向きがちだったけど、単行本では「大泉洋」や「新垣結衣」などの人物評というか、人となりの評価や見え方が素敵だなと思った。対大衆的なイメージでなく自分がどう感じたかを率直に、そして腐したり皮肉を交えず少し恥ずかしいほど素直に描写している。その当時は全くそういうつもりや意図はなかったんだろうけど、このエッセイはめちゃくちゃグッとくるラブレターだと思う。

また、「寺坂直毅」のエピソードは、二人の素朴な人間性が表れていて、結婚発表直後のオールナイトニッポンの前口上も相まって泣きそうになってしまった。

何度も読み返したくなるし、続編もいつか読みたい。それまで前から自戒の意味を込めて前から刺さってるこの文章をずっと覚えていたい。

 

相手に好かれたい、嫌われたくないという想いが強すぎて、コミュニケーションを取ることを放棄していた。コミュニケーションに失敗し、そこで人間関係を学び成長する努力を怠っていた。

それを相手に「人見知りで」とさも被害者のように言うのは、「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人間なので、そちらで気を使ってください」と恐ろしく恥ずかしい宣言をしていることと同じだと思った。

 

 

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