『女たちのテロル』ブレイディみかこ

100年前のパンクスの生き様。

 

『女たちのテロル』ブレイディみかこ

どん底の境遇から思想を獲得し、国家と対決した金子文子。武闘派サフラジェット、エミリー・デイヴィソン。イースター蜂起のスナイパー、マーガレット・スキニダー。百年前の女たちを甦らせ未来へ解き放つ、三つ巴伝記エッセイ!(Amazonより)

 

 

金子文子、エミリー・デイヴィソン、マーガレット・スキニダー。

3人が国を越えて共鳴しているような展開にワクワクしてくる。

そして、その呼びかけに時代を越えて誘われた著者のエッセンスも相まって、一世紀以上前の不条理や理不尽と戦い、自身の存在意義を示し通した女性たちの歴史を知れただけでなく、現代にも、現代だからこそ良くも悪くも響くことがたくさんあった。

 

 

【本文抜粋】

金子文子の凄みは、書物で学ばなくとも、誰かにイデオロギーを教わらなくとも、経験と心情を通して思想を肉体で読解していくところだ。思想はストリートに落ちている。”

 

”道徳とは、強者が弱者を支配するためのツールであり、支配する階級とされる階級を固定させ、維持していくための「階級道徳」なのだということを文子は見抜いていた”

 

”「民衆のために」と言って社会主義は動乱を起すであろう。民衆は自分達のために起ってくれた人々と共に起って生死を共にするだろう。そして社会に一つの変革が来たったとき、ああその時民主は果して何を得るであろうか。

指導者は権力を握るであろう。その権力によって新しい世界の秩序を建てるであろう。そして民衆は再びその権力の奴隷とならなければならないのだ。しからば、××とは何だ。それはただ一つの権力に代えるに他の権力をもってすることにすぎないではないか。”

 

”差別に反対するからといってマイノリティを上に置いてマジョリティより尊重すべきものとして扱わない代わりに、劣るとも見なさない。そもそも、マイノリティをマイノリティであるというだけでリスペクトするというのが「同情」という見下した態度なのであり、そんな人を馬鹿にしたようなことは私はしない。”

 

”平等を語るとき、人は「マイノリティ差別はいけません」とか、「貧しい人々を救いましょう」とか言って、人の下に人がいる状態は正しくないのだと説く。それなのにいつまでたっても人の下に人がいる。なぜだろう。

それは人の上に人がいるからだ。”

 

DIY(DO IT YOURSELFー自分でそれをやってみな)というのはパンクのコンセプトだが、文子の場合はそれどころか、思想をLIY(LIVE IT YOURSELFー自分でそれを生きてみな)する人なのだ。彼女は思想にかぶれたのではない。生きてきたのだ。

 

”この人は、思想を体から乖離させて机上に置ける人ではなかった。思想を本で読んだのではなく、体で獲得した人だからだ。思想は体であり、体が思想だった。転向が思想を殺すことなら、そのとき体も死ぬ。思想だけを殺せると思っていた当局が間違っていたのだ。”

 

 

3人の言葉であっても、著者の表現であっても、「思想はストリートに落ちている」、「マテリアル・ババア」、「ブルドッグ」、「LIY」など、言語感覚がとても鮮烈で、バッグボーンがあった上での言葉の魅力と威力を見せつけられた。

 

著者の『両手にトカレフ』で興味を持った金子文子含め、学校の授業では学べない人物たちに出会えた。フィクションではあるけれども『同志少女よ、敵を撃て』のように、日本で育ったら受け身では知れない史実や人物を学んでいきたくなった。

 

 

 

sunmontoc.hatenablog.com