『私情対談』藤崎翔
もはや小説じゃねえ。
『私情対談』藤崎翔
若手人気女優、井出夏希とベストセラー作家、山中怜子の誌上対談。本音と建て前が交錯する中、夏希も怜子も内心で、過去の恐るべき罪を語り出し……。 衝撃につぐ衝撃で息もできない! 奇才が描く問題ミステリ!(Amazonより)
『神様の裏の顔』がすごく面白くて新しくてハマった作者の。
感情移入とか共感するとかはほんと皆無なんだけど、元芸人てのもあってめちゃくちゃ凝ってるコントの台本読んでるみたいで楽しい。何回も「えー!」とか「こいつかー!」とか読みながら叫んだ。
短編集だと思って読んでたら、途中からの展開が想像のはるか頭上行ってた。
裏の裏をかきすぎてよくわからないレベルまでいくけど、最後のオチが唯一三流の凡人ぽくて良い。
ほんと読んでて楽しいんでオススメ。ストーリーは絶対予測できないと思う。
『池袋ウエストゲートパーク 裏切りのホワイトカード』石田衣良
定価の単行本は高級品だけど我慢できなく買っちゃった。
『池袋ウエストゲートパーク 裏切りのホワイトカード』石田衣良
「池袋ウエストゲートパークにはこの20年間のニッポンの問題が、すべて詰め込んである」――石田衣良
池袋のトラブルシューター、マコトのもとにはあらゆる難題が持ち込まれる。でたらめの虐待疑惑をネットに書き込まれて炎上した宅配ドライバー。母親が悪い男とドラッグにはまった女子中学生。根拠のない情報が溢れるオカルト・サイト。ATMの不正操作による大規模詐欺。収録の4編はどれも現実の事件を彷彿とさせるものばかり。
どんな事件も飄々と解決するのに母親には頭が上がらないマコトと、Gボーイズを率いて池袋の裏側を取り仕切るクールなタカシ。絶妙のコンビが活躍する人気シリーズ第13弾。
「今」の空気が体感できる1冊です。(Amazonより)
今回も変わらずの安定感でした。
徐々に歳も取っていってて、テーマも今の社会問題とか世相を反映してるから、劇的な変化はなくても、すんなり入ってきて満足感ある。
ただ、各編の冒頭の文章に作者の思想結構入ってるなとも思うけど笑
キングがどんどん人間味が増してる気がする。というか『キング誕生』の頃に戻っていってる感じ。ドラマと違って、キングの冷酷具合ももちろん好きなんだけど。
このシリーズも小路幸也の『東京バンドワゴン』シリーズと一緒で、ずっと続いて欲しいし、本棚にずっと並べておきたい。
ルック・バック・イン・アンガー 樋口毅宏
表紙はポップだと思ったんだけど。
『ルック・バック・イン・アンガー』樋口毅宏
愛する女が他の男に抱かれると異常な悦びを覚える白鳥。
脳内の友から逃れようと、酒に溺れるロック狂の逸馬。
醜貌の蜂村は部長の肩書きで女を誑かしては教祖のように振る舞い、茂吉は一族の宿命に縛られる。
世間から蔑まれ生きるエロ本出版社の男たちは、欲と自意識に囚われ、やがて凄まじい一撃を炸裂させる――。
著者が編集者時代と決別すべく描いた、超弩級の物語!(Amazonより)
読み始めは、作者らしいエログロな感じで 、こんな感じかなーと思ってたら予想以上に深くて。もはや深いというかなんというかよくわからない感情になった。語彙力なさすぎて表現できない。
作者の経験談とか色んなオマージュが混ざっているんだろうけど、ちょっとでもリアルな出来事が入ってるんだろうなと思うと、恐ろしくて未知の世界。
表題作をわかりやすく簡潔に表したのが、後半に載っている『四畳半のシェークスピア』なのかなとも。
あとがきの対談も面白くて、石原慎太郎読んでみようかなと思った。
愛される資格 樋口毅宏
久しぶりのマイマスター。
『愛される資格』樋口毅宏
大手文具メーカー「あねちけ」に勤める富岡兼吾(33歳)は、普段から自分に厳しい昭和的体育会系上司・下永に不満を持っていた。ある日、酒に酔った下永を家まで送った兼吾は、下永の妻・秀子と出会い、復讐のためのある企みを思いつく―これは官能小説ではない…純愛小説である。(Amazonより)
途中までは期待通りのエロさと破滅的なストーリーでスピード感心地良い。
だけど、終盤に差し掛かってからの、アラサーの持たざる者のあがきというか、内省的な吐き出しが、同世代として共感というか身につまされる思いだった。
作者の醍醐味である攻撃的なオマージュは、期待してたより少なめだったけど、前半・後半の2段階で楽しめる物語。
最後まで事態はあまり好転しないけど、真っ黒の端っこが墨色になるくらいの希望の見え方で終わるところが好感持てる。
というか作者が年齢の割に本当に感覚が若い。
空飛ぶ広報室 有川浩
思ってた3倍面白かったし読み易かった。
不慮の事故で夢を断たれた元・戦闘機パイロット・空井大祐。異動した先、航空幕僚監部広報室で待ち受けていたのは、ミーハー室長の鷺坂、ベテラン広報官の比嘉をはじめ、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった。そして美人TVディレクターと出会い……。ダ・ヴィンチの「ブック・オブ・ザ・イヤー2012」小説部門第1位のドラマティック長篇。(Amazonより)
今まで読んでなかったの後悔するレベル。
自分の中の「自衛隊」に対する考え方・印象が変わった。(隊員全員がそうだとはわかならないけど)
徒労・杞憂に終わることが一番良いと願って日々訓練に励むって物凄い。愛国心とかそういう話ではなくて。
ふと、「自衛隊」って海外にもあるのか気になった。モデルとかあるのかな?
登場人物に関しては、鷺坂の飄々ぶりも好きだけど、シンプルに空井と稲葉の感情が昂ぶった時の描写が好き。あんな感動する「なでてて」は初めて見た。
個人的には、恋愛模様で最後をまとめなかったことが好感持てたし、作者の真摯な姿勢が窺えた。
『あの日の松島』については、震災について、被災者や傍観者の立場の物語しか読んだことがなかったから新鮮だったし、税金で賄われているとはいえ、そこまで挺身するのかと驚きだった。
想像以上に柔軟な部分もあるし、結束が固いし、集団として自衛隊って良いなと思った。
暗黒童話 乙一
久しぶりに読んだらすごかった。
『暗黒童話』乙一
死者の眼球が呼び覚ます悪夢の記憶とは?
事故で記憶と左目を失ってしまった女子高生の「私」。臓器移植で死者の眼球の提供を受けたのだが、その左目がある映像を再生し始めて……。天才・乙一の初の長編ホラー小説がついに文庫化。(Amazonより)
7年前くらいに読んだ時には、ホラーだけど読みやすい感じだなと思ってたけど、これのグロさ。侮ってた。
でも突き抜けたグロさも良いけど、最後の展開と時間軸のミスリードが素晴らしかった。
あとグロいんだけど、どこかメルヘンチックというか、日本が舞台なのに、気づけば外国のイメージが脳内で発生してた。
てかグロいってしか言ってない。
最後に主人公の人格が消えて、元の人格に戻ってたのが、ちょっと急すぎないかとも思ったけど切なかった。
これからもっと漁ってきます。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』
今年一番喰らった。静かに喰らった。
『わたしは、ダニエル・ブレイク』
2016年・第69回カンヌ国際映画祭で、「麦の穂をゆらす風」に続く2度目の最高賞パルムドールを受賞した、イギリスの巨匠ケン・ローチ監督作品。イギリスの複雑な制度に振り回され、貧困という現実に直面しながらも助け合って生きる人びとの姿が描かれる。イギリス北東部ニューカッスルで大工として働くダニエル・ブレイク。心臓に病を患ったダニエルは、医者から仕事を止められ、国からの援助を受けようとしたが、複雑な制度のため満足な援助を受けることができないでいた。シングルマザーのケイティと2人の子どもの家族を助けたことから、ケイティの家族と絆を深めていくダニエル。しかし、そんなダニエルとケイティたちは、厳しい現実によって追い詰められていく。(映画.comより)
これマジで映画館で観たかった。
まず、当然のことで、自分が無知なだけなんだけど、映画でよく見るアメリカの貧困と同じように、イギリスにも格差や貧困があって、制度や手続きに悩まされてしまっているってことに気づかされた。自分が今福祉の仕事をしているから、手続きや申請を順を追ってやらなきゃいけないってことも理解しているから、正直やりきれない気持ちも。
ケイティが風俗の仕事を辞めないことも、ご都合主義の展開じゃなくて良い。
フードバンクのシーンでヤられて、壁のメッセージでヤられて、最後の場面でヤられる。淡々としたストーリーなのにガンガン揺さぶられる。途中テンション上がるのにさらにまた落とされる。
不備はもちろんあるけれども、日本の国民皆保険・医療費自己負担限度額・年金・生活保護制度とかは、困窮している場面ではやっぱり手厚い制度だし、当たり前のように感じている、むしろ感じることすらあまりないけど、恵まれていると再認識。
「寝室税(bedroom tax)」て言葉も初めて知った。
今日から外国人で一番かっこいい名前は『ダニエル・ブレイク』になった。
『麦の穂をゆらす風』などのケン・ローチ監督作!映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』予告編