『ザ・ロイヤルファミリー』早見和真
家族ドラマとスポーツエンターテイメントのとんでもなく高次元での融合。
『ザ・ロイヤルファミリー』早見和真
継承される血と野望。届かなかった夢のため――子は、親をこえられるのか? 成り上がった男が最後に求めたのは、馬主としての栄光。だが絶対王者が、望みを打ち砕く。誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される。馬主として、あの親の子として。誇りを力に変えるため。諦めることは、もう忘れた――。圧倒的なリアリティと驚異のリーダビリティ。誰もが待ち望んだエンタメ巨編、誕生。(Amazonより)
序盤の方では、やはりこの作者は家族の物語が醍醐味なんだと改めて感じさせてくれる。そして少し経済小説にも思わせる。
初めて競馬場を舞台にした物語を読んだけど、最初の日本ダービーから、ハイスピードな攻防の描写と実況の臨場感でめちゃくちゃテンション上がる。字で追ってトップレベルに面白いスポーツだと思う。
第一章からボリュームも起伏も満点で、この後第二章も通して、どう続いてどんな展開になるかが全く予想できず楽しみが増える。また途中から主人公・クリスが初めて山王に意見をする部分も出てきて立場や信頼関係に変化が生まれてきて面白い。
そして、第一章のラスト、有馬記念の結果が万事良しと言う感じではないからこそ、第二章に期待を更に持たせてくれる。
あと実際に読み進めないと章名の意味がわからないところも何かを作品・作家と共有している感じがして好き。
使える人物が違うから当然だけど、第一章と第二章でクリスの役割に変化が出ているところもそれぞれの人生の経過を表している。振り回される秘書から心配性な後見人というか。でもそんなに簡単ではなく、耕一とクリスの関係性の揺れ動きもあるけど、かつて山王から「裏切るな」と誓わされたクリスが、今度はその息子に「裏切らない」と宣言する場面はグッと来る。こうやって変化を帯びながら関係や繋がりも継承されていくんだなと。
そしてラストレース、無呼吸みたいな感じでページを捲る手を急かさせる展開は最高だけど、絶対このままでは終わらないんじゃないかと思った男・佐木。どこか『スラムダンク』の県予選陵南戦の小暮のような。最後の展開は興奮とニヤつきが止まらなかった。
別の作品『6 シックス』でもそうなんだけど、オチの画像で結末や描かれない未来を示す作者の手法が好きで、今回もオーラスのロイヤルファミリーの成績にはテンションぶち上がり。
継承がテーマであるこの物語。栗須家、山王家、野崎家、中条家、椎名家、そして各馬の血統。家族内の尊敬や確執や葛藤、様々な思いを滲ませながら、そしてある種血よりも濃い繋がりや奇跡を生み出しながら、競馬という舞台を通して何世代にも渡る壮大な大河ドラマを見せてくれた。
年に一回有馬記念しか賭けていなかったけど、純粋に競馬という世界をしっかり味わってみたくなった。