『銀河鉄道の父』門井慶喜
想像以上に良かった。
『銀河鉄道の父』門井慶喜
宮沢賢治は祖父の代から続く富裕な質屋に生まれた。家を継ぐべき長男だったが、賢治は学問の道を進み、理想を求め、創作に情熱を注いだ。勤勉、優秀な商人であり、地元の熱心な篤志家でもあった父・政次郎は、この息子にどう接するべきか、苦悩した―。生涯夢を追い続けた賢治と、父でありすぎた父政次郎との対立と慈愛の月日。(Amazonより)
俺の父性のイメージはほとんど重松清で構成されているけど、新たな要素が加わった。
最初は昔の言葉遣いや岩手弁がすんなり入って来ずにちょっと読みにくいかなーと思ったら、風景・心象描写の標準語との絶妙のバランス、テンポが良い会話のやりとりで、どんどんページを捲るペースが上がっていった。
家父長制が色濃く存在する時代に柔軟な父親になろうと悩み続ける姿や、現代ほど子供への愛情を素直に表現することが許されない時代に、それでも病に伏したときなどには無償の愛を捧げる姿に好感を持った。
また表面的なことしか知らなかった宮沢賢治が、どんな人生を経て、有名な作品たちの創出に行き着いたのかを知ることができて良かった。恵まれた境遇ではあったけど、劣等感や妹との死別など、様々なことを経験してあのなにかを超越しているような境地に達したんだなと。
そして死後に政次郎が『雨ニモマケズ』の訳を孫たちに説明する際の、最後の文章が与えるイメージが新鮮でなにか親近感を持たせてくれた。
宮沢賢治本人を知る伝記としても、どの時代にも普遍的に存在する父性を感じる物語としても面白かった。