2022年読書ベスト

毎年恒例のやつです。

 

去年はこんな感じ。

 

sunmontoc.hatenablog.com

 

今のところ読み終わったのは110冊。その中の16作品。1〜11は小説、12〜16はエッセイやノンフィクション。

作家ごとに一冊、ランキングでもないし感想の長さは気まぐれなので満足度に比例しません。どれもオススメ。

年末年始の暇つぶしの参考にどうぞ。

 

 

1.『宙ごはん』 町田そのこ

 

2.『六人の嘘つきな大学生』 朝倉秋成

 

3.『流浪の月』 凪良ゆう

 

4.『水を縫う』 寺地はるな

 

5.『パラソルでパラシュート』 一穂ミチ

 

6.『ランチ酒』 原田ひ香

 

7.『機械仕掛けの太陽』 知念実希人

 

8.『腹を割ったら血が出るだけさ』 住野よる

 

9.『N』 道尾秀介

 

10.『緑陰深きところ』 遠田潤子

 

11.『縁結びカツサンド』 冬森灯

 

12.『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』 鈴木忠平

 

13.『常識のない喫茶店』 僕のマリ

 

14.『アロハで猟師、はじめました』 近藤康太郎

 

15.『ニューヨークのとけない魔法』 岡田光世

 

16.『佐久間宣行のずるい仕事術』 佐久間宣行

 

 

1.『宙ごはん』 町田そのこ

 

ここ数年、小説でもエッセイでも食にまつわる話が好きになってきて色々読んでるけど、その中でも格別。

 

出てくる料理はどこか地味というか、物珍しいものではなく、馴染みがあるもの。

 

でも、今まで経験してきた作品よりもエピソードに軽さが少なくずっしりしっかりしていて、たっぷり登場人物たちの心理描写や世界観を味わった上で、過剰じゃない必要最低限の救いを与えてくれる一品って感じ。

 

作者ならではの、マジョリティではない、声高に叫べなさそうに感じられてしまう人々の苦しみや葛藤を、その人たちにとってしか当てはまらないオーダーメイドのような形での光を提示してくれる。そしてその受けた救いをしっかり繋いでいくところも。

 

決してお涙頂戴な感じではないんだけど、登場人物を驚くぐらいズバッと入れ替えて、でもその人たちが与えてくれたものはしっかり受け継がれて積み重なっていることが実感できる。また、家族であったとしてもそれぞれの優先順位を大事にして逃げたり断絶したり諦めていくところも好きなところで、ユニークな環境で育った主人公の俯瞰さと相まって物語に良い冷たさを加えてくれている。

 

その要素がこれでもかと凝縮された最後のエピソードは見事だった。

他の作品に引っ張られてるけど、永野芽郁で実写化してほしい。

 

『星を掬う』もオススメ。

 

2.『六人の嘘つきな大学生』 朝倉秋成

 

去年話題となっていた作品ようやく。

告発文が出て来た後から徐々に出てくる六人の本当の姿が、若干期待はずれで、「こんな感じで進んでいくのかー」と多少がっかりしていたら、そこからの展開がとんでもなく面白かった。

 

中盤までに積み重なっていた些細な違和感がどんどんカチっとハマっていき、表裏が見る角度によって変化していく流れに夢中になった。

 

また、印象の移ろいやすさや誤解されやすさが、「就活」という多くの人が経験する化かし合いのフィルターを通って、より色濃く描写されている。

 

あと、個人的には波多野にも両面があるように思わせてくれるところと、ラストの就活生にもある種欠点にもなり得る無垢さがあることで、より嶌にとっては救いのようなものになっているところが印象的だった。「本当に鋭い考察だ」の真意もわかりたい。

 

この作風にハマったし、『俺ではない炎上』も面白かった。

 

 

3.『流浪の月』 凪良ゆう

 

最初から最後まで見事だった。静かな筆致だけれども、ダレるところや息抜きする間もなく、常に何かを提示してくるような読み応えが続いていた。

 

また、読む側が多様な価値観や不要な固定観念に一定の理解や疑問を抱え始めたところで、更に新たな展開が待っており、それこそ主題のひとつでもあるような真実と事実の乖離と齟齬を投げかけてくるようであった。そしてその真実は決してひとつの言葉や考え方でカテゴライズできるものではなかった。

 

”わたしたちは親子ではなく、夫婦でもなく、恋人でもなく、友達というのもなんとなくちがう。わたしたちの間には、言葉にできるようなわかりやすいつながりはなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、けれどそれが互いをとても近く感じさせている。わたしは、これを、なんと呼べばいいのかわからない。”

 

”わたしはなにも答えられない。真実と事実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められる気がしない。黙って頭を下げているしかできなかった。”

 

ドラマ版しか見ていないけど『ミステリという勿れ』の「真実は人の数だけあるんですよ でも事実は一つです」的な台詞が頭にずっと残っていたけど、今作を読んである種その言葉の残酷さというか、反対側からの想いを考えてしまった。

 

また自分の読書経験というか考え方は、朝井リョウの『正欲』以前以後で変わってしまっていて、時系列は逆だけど今回も自身の多様性の捉え方の矮小さみたいなものを感じてしまった。

 

テーマやメッセージだけではなく、作品としての流れも見事で、予想もしていなかった伏線の回収や最初と最後のつながりなど、終始没入させてくれた。

 

そして、のめり込めばのめり込むど、この二人の行き着く先には果たして幸福があるのか、と気を揉まずにはいられなかった。結果的に、客観的には完全にはスッキリしない着地なんだけど、そこへの想いなんてものは決して他人が想像しきれるものではなく、当事者にしかわからず、当人たちにもわかりきっているものではないかも知れず、むしろそんな判断を下すこと自体が傲慢なのかもしれない。

 

”わたしたちはおかしいのだろうか。その判定は、どうか、わたしたち以外の人がしてほしい。わたしたちは、もうそこにはいないので。”

 

映画もまた違った要素もあって良かったし、『わたしの美しい庭』も是非。

 

 

4.『水を縫う』 寺地はるな

 

評判が気になって、初めて読んだ作家さん。面白さがジワジワ伝わってきて読み終わる時の満足感と言ったら。

 

世間の「普通」との対峙の仕方や抗い方は人それぞれで、強く反発することだけが大切なのではなく、静かに自分の居場所や生き方を守り抜く人たちもいるんだってことを感じさせてくれる。

 

それは大仰な言い回しや印象的なメッセージに込められるのではなくて、サラッとした文章にじんわりと示されている。

 

”見えない部分に薔薇を隠し持つのは、最高に贅沢な「かわいい」の楽しみかたやろ”

 

”でも、今からはじめたら、八十歳の時には水泳歴六年になるやん。なにもせんかったら、ゼロ年のままやけど”

 

”好きなことと仕事が結びついていないことは人生の失敗でもなんでもないよな、きっと”

 

無意識に「普通」という概念に絡め取られてしまうことは誰にでもあるけど、この物語はそこからの脱出の仕方や、その枠外で生活していくことのヒントがふんだんに表現されている。

 

また、似ている話ってわけではないけど、どこか清涼感というか穏やかさの中に鮮烈さを感じるところが、『僕は、線を描く』と通じるものがある気がする。

 

 

5.『パラソルでパラシュート』 一穂ミチ

 

本屋大賞にノミネートされている『スモールワールズ』も面白かったけど、個人的にこれはその上を行っていた。

 

大阪が舞台でお笑いが大事な要素になってるからってこともあるけど、会話劇がめちゃくちゃ面白い。しかも無理してそう見せようとしてるのではなくて、亨の雰囲気のようにあくまで自然体で。カフェで何度も笑ってしまい、マスク着用のご時世でよかった。また、舞台のネタも素人目線だけど本当に面白かったと思う。誰かプロの協力入ってるのかな?と思うレベルで。

 

街の描写も共感性が高くて好き。「ドラッグストアの軒先にはみ出した山積みの雪肌精」とか誰もがクスッと来るんじゃないかな。

 

そういう、さまざまな笑いのエッセンスが嫌味じゃない塩梅で随所に散りばめられていて読むのが楽しくなっていくんだけど、この物語の本質はあくまで(安っぽく聞こえそうで嫌だけど)多様性であるとか、凝り固まった価値観へ一石を投じていることなんじゃないかと思う。しかもそれは蔓延している男尊女卑とかだけではなく、「お笑い」というそういう世間一般の考え方の外側にあるような世界においてもで、弓彦がUSJで先輩に説教されて自分の意見を吐き出すところなんて特に。うまく説明できないけど、わかりやすい対立構造や考え方とは違う次元で目が覚めるような気づきや心持ちが軽くなるヒントをたくさん与えてくれる。

 

”大人になって友達ができること、たまたま同じ会社で知り合った子とあてのない約束をすること、そこにはかたちになる安全や安心は何もない。でも、セーフティネットってこういうものだと思った。社会保障とか福祉とか、お金ありきで回っていく仕組みだけが人を支えるんじゃない。か細い蜘蛛の糸だって、編めば網になる。崖の底から這い上がるためじゃなく、笑って落ちていくために”

 

”わたしは、わたしを救ってくれるものを守れたらほかはどうでもいい。”

 

”魔法はかけられるんじゃなくて自分がかかるもの”

 

ほかにもたくさん、現実と向き合うってことは世間一般に合わせるんじゃなくてそこで自分の武器で自分の生き残り方をするっていうことなんだと気づかせてくれた。

 

常に温度感は一定で、起伏は少なく穏やかなんだけど、読み終わった後の満足感は想像以上のものがある傑作だった。

 

『光のとこにいてね』も間違いなし。

 

 

6.『ランチ酒』 原田ひ香

 

まずなによりもタイトルが良い。昼飲みとかじゃなくてあくまで「ランチ」ありきの酒。ここの塩梅で物語のアルコールへの依存度というか、どのような存在なのかが示されている気がする。

 

夜中に「見守り屋」という風変わりな仕事をし、その後の一杯。各エピソードの依頼者宅でのエピソード、ランチの内容、主人公が抱える問題の進行具合、全てのバランスがすごく良かった。それぞれ悩みもあるし、朗らかな場面ばかりだけではないけど、仕事終わりの食と酒が、その人たちを労い、少しの忘却と許しを与えてくれるように感じる。

 

また、主人公が吹っ切れたように「仕事を頑張ろう」っと決意するところは様々なことを考え始める30歳過ぎには、なにかに力を注ぐ踏ん切りのようなものを教えてくれる。

 

そうだ、ずっともやもやしていた原因がわかった。自分に力がないからだ。自分がだめでただ悩むだけで、ぐだぐだと考え続けているからだ。

明里がこれからどんな選択をするかはわからない。けれど、こちらはちゃんと準備をしておこう。少なくともいざとなったら引き取れる、自信のある自分でいたい。

 

続編も良かったし、テレビ東京で早くドラマ化してほしい。

 

 

7.『機械仕掛けの太陽』 知念実希人

 

去年ベストに挙げた『臨床の砦』もそうだったけど、コロナ禍になって三年、色んな情報やポリシー、信条が飛び交っているけど、紛れもない事実がここにはある。

 

コロナがなぜ発生して、増えて、伝播して脅威になったのか、素人にも分かりやすく書かれている。

 

そしてその未曾有の事態の渦中で、心や体が疲弊し壊されても立ち向かっていった医療従事者の戦いの記録でもある。それは華美に強調されるわけでもなく、劇的に感じるわけでもなく、シンプルに実際に起こった出来事として目を逸らさずに正面から受けとめることが重要なんだと思う。

 

あくまで小説だけれども、医療現場のドキュメントに基づいた現代ならではの物語。

 

 

8.『腹を割ったら血が出るだけさ』 住野よる

 

麦本三歩シリーズはあったけど、久々の著者の作品でしかもかなり期待高まるタイトルで楽しみにしてた今作。

 

冒頭から他人がどう見えているか、自分がどう見られているかが痛いくらいに描写されていて、作者らしさがダダ漏れ

 

だけどその期待感とは裏腹に、主人公の思考というか心理みたいなものが、(自分にとっては)理路整然と詳しく書かれすぎていて、徐々に自身の理解力の範疇から遠ざかっていく感じがして、著者の作品で初めて「読みきれないかも…」ってちょっと挫折しかけた。

 

しかしそこを抜けると、なんとかしがみついてきた登場人物たちへのそれまでの理解の蓄積もあり、214ページあたりからの面白さは格別で、めちゃくちゃゾクゾクした。ただそれは単に反転していく痛快さというよりも、どこにでも誰にでも存在する曖昧な部分に対する齟齬というか、二分できない妙な読み応えだった。

 

それからクライマックスまでは、それまでのページをめくる遅さが嘘のようにどんどん没頭していき、自分に新たな考え方の視点を残していった。

 

昨年読んだ本で一番衝撃だったのが、朝井リョウの『正欲』だったけど、そこで感じた「自分の了見の狭さの範囲内での善悪の判断への警鐘」のようなものとはまた違った、「自分らしさの解放度が人生の幸福度に直結するのか」みたいなものを感じた。どちらかというと自分も逢よりの考え方だったから、その反対側?に立つ人たちの主張も考えるきっかけとなった。

 

さまざまな登場人物たちの思考の波を浴びて疲労度は高いけど、また最初からじっくり読んでみたくなるずっと本棚に置いておきたい作品。

 

なんとなく『NANA』の世界観をイメージして読めた。

 

 

9.『N』道尾秀介

 

”全六章。読む順番で世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語”

 

この仕組みをぜひ味わってほしい。新体験。

 

物語の面白さはもちろん折り紙付きなんだけど、今まで当たり前に思っていた「起承転結」に対する固定的な捉え方を覆された。

 

また始め方と終わらせ方についても、自分が選んだ順番が一番のアタリだったんだと思ってしまうけど、どの道筋選んでもそう感じてしまいそう。

 

紙媒体、物質的な意味での「本」ならではのつくりも、いい意味で章ごとに脳がリセットされて電子書籍では感じられない良さがあった。

 

 

10.『緑陰深きところ』 遠田潤子

 

『雪の鉄樹』、『オブリヴィオン』と、陰鬱でとことんどん底だけど微かに光を見せてくれる著者の作品が大好きなんだけど、これも一生残しておきたい作品になった。

 

設定や仕掛け、気づきとか良い作品にはいろんな要素があると思うけど、そういう細かい要素抜きにして、物語としてただ単純に圧倒的に面白かった。

 

いつもの期待がグッと高まる暗い幕開けから、不思議な相棒と一緒のロードムービーを見ているような展開、そして最後の救いまで、予測できない流れに終始魅了された。

 

主人公とリュウ、どちらが救い、救われたのか、そのどちらもなのか、目まぐるしく翻弄される終盤には思わず昂って泣きそうになってしまった。

 

そして何度も出てくる詩が持つメッセージを、最後にとても綺麗に描写するオーラスは完璧。

 

たくさんの魅力が詰まっている作品でうまくまとめることができないけど、この読書体験ができたことが只々幸せだった。

 

 

11.『縁結びカツサンド』 冬森灯

 

ほのぼのゆったりとした食にまつわる物語だと思って読み始めたら、人生の芯食った要素があって期待以上に面白かった。予想外の人物像や繋がりも。

 

何よりも最後の大事なエピソードの回収の仕方が見事すぎて、「うわっ…」って軽く引いちゃうほど。

 

これ絶対好きな人多そうだから、感想は短いけどいろんな人に読んでほしい。

 

『うしろむき夕食店』も読んでほしい。

 

 

12.『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』 鈴木忠平

 

ラジオで佐久間さんがオススメしていて気になって。読む前は分厚さに気後れしてたけど、どんどん落合博満の魅力というか底知れなさに夢中になっていった。

 

迎合せず、あくまでも乾いた関係でドラスティックに。でもそこには好き嫌いや個人の嗜好が介在しない、誰のためにもしない、誰のせいにもしない、契約したことを遂行し自分のために行動するという極めてシンプルな行動原理があって、その単純すぎるが故に万人には受け入れ難いものであったのだと思う。

 

著者も述べている通り、いくら言葉を重ねても落合博満という人間の深淵には辿り着けないんだと思う。でもその男を中心として8年かけて考えが伝播・浸透していき、孤独を持ち合わせた個の集団が、自分の判断を貫きながら最後にリーグ優勝を掻っ攫うシーンは最高だったしどんなドラマも勝てない。

 

野球・スポーツ好きも、自己啓発好きも、ビジネスマンも、小説好きも、どの側面からも最高に面白い一冊なのでめちゃくちゃオススメです。

 

 

13.『常識のない喫茶店』 僕のマリ

 

誰かがエッセイで出てきたので気になって(こだまさんのかな?)。

 

読み終わったら誰かにオススメせずにはいられない作品だった。そしてこれをオススメできる人とのつながりは大切だと思う。

 

胸がすくような爽快な痛快なエピソードや、働くこととりわけ接客業について改めて考えさせられることが満載。

 

「失礼な客は出禁」、トンデモな方針のように思えるけど、仕事に消費されず自分たちを守るためにはそれはとても大切なことであって、本当は当たり前であるべきことなんだとも感じる。そこに少しの躊躇を覚えてしまうのは、多少なりとも自分も社会に良くも悪くも慣れてしまっているからだと思う。

 

また痛快さだけではなく、「自分もこういうふうに思われているんじゃないか」と思うと、意識してなかった接客を受ける側としての態度も考え直してしまう。タバコ買うとき番号しか言わない時あったり。

 

伝え切れないほどの魅力がたっぷりなのでぜひ読んでほしいし、一生本棚に置いておきたい一冊。

 

あとやっぱり、少し怖いけどこの喫茶店行ってみたい。

 

 

14.『アロハで猟師、はじめました』 近藤康太郎

 

大学時代の友人(いっとん)から薦められた一冊。もとはラランドのニシダが取り上げていたらしい。

 

ライターが移住して米を作り始め、猟にも手を出す。アロハで。どこか楽天的というか自由奔放な印象で、そこから経済に関する知恵みたいなものが引き出されていくのかと思ったら。

 

自然や動物を相手にするということは、もちろんそんな簡単に甘いものじゃなく、その描写は匂いや傷までイメージさせる生々しさに溢れていて、肉体と精神ともに酷使した上での経験をもとに導き出される、著者の様々なことに関する考え方や信念のようなものは色んな気づきやモノの見方を教えてくれる。

 

・これ(猟の過程で「自分だけの秘密基地」を作ること)に興奮できれば、精神年齢小学五年だ。こんなことに興奮できる幼さに、喜びを感じるだけの精神の若さが、自分のなかにまだ残っている。自分の幼さと、折り合いをつけない。自分のなかの洟垂れを手放すな。

 

・肩に食い込む銃の重みとともに、初めて肉体で分かることがある。肩の痛み、足の痛みを通過していない言葉だけの平和主義も、言葉だけの愛国主義も、軽薄である。児戯に等しい空疎な観念だ。銃をとれ、命をとってから、言えるものなら言ってみろ。

 

・自分たちのせいで、けものが死ぬ。けものの死こそ、自分たちの生である。それは、殺生の快楽ではない。殺生のあとにやってくる音楽や踊りや笑いであり、飢えからの解放であり、腹の充足であり、セックスであり、深い眠りであり、それらこそが〈快楽〉だったのだ。

 

・「欲望」は人間だけが持つものだ。けものに、欲求はあっても欲望はない。それは、欲望が、言語によって引き起こされる現象だからだ。

 

・欲望の本質は「他者によって確認される」ということである。生物的な欲求ともっとも異なるのはここだ。他者の存在なくして、欲望は充足され得ない。したがって、欲望には限りがない。

 

・存在とは、「ある」のではない。「なる」ものなのだ。

 

・自分探しなど、さてさて笑止の限りだ。自分とはなにかと探すのではなく、ついについにこう問わなければならないのだ。「なにが自分であるのか」と。わたしとはなにか。決まっている。他者の命だ。他の生命の殺戮によって成り立つ、たったいっときの〈現象〉が、わたしなのだ。

 

・「逃げる」のと「ばっくれる」の違いはなにか。(中略)ばっくれるというのはどういうことかというと、ふまじめなのだ。逃げるそぶりなど見せない。みんなとおなじ社会に、おなじゲームに参加して生きていますよというシグナルを送りつつ、なんとなく、ヘラヘラと笑って生きている。わたしたちはあなたたちの味方です、同類ですよ…。そして、後ろ足で、そっと後ずさる。集団を出てしまう。

 

・ばっくれながら戦う。武器を取りつつ、ばっくれる。(中略)そして戦いとは、人間的なつながりを復活させる戦いだ。

 

言葉の重みを訴えるにはそれに伴う身体的な痛みが必要なこと、殺生によって生じる快楽の本来の場所、他者の存在や言語によって欲望が発生すること、存在とは状態ではなく過去から未来へと移ろう中での現象であること、社会から逃れて断絶するわけではなく認識しながらもその輪から外れて自分たちの戦いをすること、本当にたくさんのことを教えてくれた。

 

全てを理解して腑に落ちたわけではないけれど、個人的には「自分のなかの洟垂れを手放すな」ってところが、色んなことに理由をつけて納得したふりを自分自身にしてしまいがちな年頃だから、特に刺さった。

 

時代に沿った革新的なことをしているわけではないのだけど、その土地での暮らしをどんな目的や考え方で行うか、どんな繋がりを形成して付き合っていくかっていうところに田舎在住者としては可能性というか見落としていたものを感じてハッとさせられた。

 

著者のこれからの戦いも追っていきたいし、これまでの作品や考えもたどりたくなった。この本は一生本棚に置いておこう。

 

 

15.『ニューヨークのとけない魔法』 岡田光世

 

なにかでピックアップされてて気になり試しに購入。

 

ずっと風呂入りながら読んでたんだけど、各エピソードの文量もテンションもちょうどよくてすぐ読み終わった。

 

筆者が体験したり聞いた、ニューヨーカーたちの悲喜こもごもなエピソードが魅力的で、しかもそれを基本的にカラッとした雰囲気で書き上げてるから悲しかったりネガティブな場面もそういうときもあるよねって感じで読める。

 

出てくる登場人物の強烈さ、ユーモア、おかしみ全てまるっと含めて憎めない感じがしてすごく良かった。

 

またその出会いや経験の機会っていうのはニューヨークだから、英語を話せるからってことだけでもないことも教えてくれる。

 

英語を知っていてよかった、と私は心から思う。そのおかげで、世界は何倍にも広がった。だが、英語がうまく話せなくても、心が柔軟であることが何よりも世界を広げてくれる。

 

個人的に海外旅行とかはしたことはないんだけど、やっぱり英語って勉強していきたいなとモチベーションが上がり、TOEICまた受けるきっかけになった。

 

早くシリーズ制覇したい。

 

16.『佐久間宣行のずるい仕事術』 佐久間宣行

 

普段のラジオからも、前作のラジオ本『普通のサラリーマン、ラジオパーソナリティになる~佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)2019-2021~』からも、パブリックイメージというか、いつものガハハ笑いで楽しく、そして社会を生き抜くためのエッセンスや家族愛を多分に含んだエピソードから滲み出るあたたかい印象を受けていたけど、今作ではその安易なイメージをいい意味で裏切られた。

 

それは、その穏やかな印象の裏で、というか裏ではなくそれと併せ持って、テレビ業界を20年以上生き抜いてきた仕事人としての整然とした理論と考え方、行動力から形成されるある意味ではゾクッとした寒気すら感じるものである。

 

もちろん本人はたくさんの苦労を乗り越えて今の仏のような境地に達したんだろうけど、その戦略や方法は社会人なら流されがちな弱さや甘さ、同僚や仕事とのなあなあな関係性を徹底的に排除したものであり、今の自分が全て当てはまってすぐ取りかかれるかと言われるとだいぶ自信がない。そういう意味では共感度は思ってたよりも低めだった。

 

それでも現状でも響いたり心がけられる部分はたくさんあった。

 

”組織にいるうえで、不機嫌でいるメリットなど一つもないのだ”

”大切なのは相手に勝つことではなく、障壁なく仕事ができる環境を手に入れること”

”コミュニケーションは「最短距離」より「平らな道」を行くことだ”

”「コント:嫌いな人」でバトルを避ける”

”上司と部下は対等な関係だ”

”陰口が自分の耳に届いたとき、それでも自分の意志を貫ける人だけが、やりたい仕事に取り組める”

”自分の「得意」は「努力の割に評価されること」の中にある”

”運は愛想と誠実さによって架けられた「信用」という名の橋を渡ってやってくる”

”天才じゃなかったらやめるのか?好きだからやってるんだろ

 

もちろん、ここに書かれているのはあくまで方法で目標ではないけれども、それを意識実践しながらやり抜いていけるように少しずつ何かを変えて継続していきたい。次に読む時には響く部分が増えているように。

 

 

 

こんな感じでした。

挙げてる作家は去年と似てるけど、今年は食にまつわる本を結構読んだ。土井善晴の本とかも読んでみたい。

毎年言ってるけど来年はもっとこまめに感想書きたい。