『鎌倉駅徒歩8分、空室あり』越智月子

鎌倉、シェアハウス、コーヒー、カレー、面白くないわけがない。

 

鎌倉駅徒歩8分、空室あり』越智月子

誰かと生活することは、めんどくさいけどあたたかい。
鎌倉駅から徒歩8分。木々と小鳥に囲まれたシェアハウスには、今日もカレーとコーヒーの香りがいっぱい。
まだ空室アリ〼。(Amazonより)

 

 

作品名とあらすじから、ほのぼの系を想像していたけど、最初の章からなんとなくそれだけではなさそうな違和感を感じる。

そして2番目の章の冒頭でその違和感はより露わになっていき、この物語は内心の綺麗じゃない部分を含んだ、もっと人間臭いものなんだと気づき始める。

 

女性にフィーチャーされてはいるけれど、夢や希望が人生を形成する割合が低くなってきた年代の、諦めやなんとかならないことも含めて、全てを万事解決せず、必要以上に纏めず、とりあえずしばらくの間の暮らしがふっと楽になる程度の落とし所が好感が持てる。

 

また、前の章で外から見た長所が目立ち、メインとなる章で内側のうんともすんともいかない、ドロッとした部分の心理描写があり、それからきっかがあり、みんなで食卓を囲んで少し生きやすくなる。この構成がすごく好きだったし、各エピソードのタイトルが秀逸。

 

最終章の終わり方も素敵だったし、ここまで意識せず読んでいた主人公を取り巻く環境も思いやりで溢れていた。巻末のレシピまで読み手を楽しませる工夫も嬉しい。

 

初めて読んだ作家さんだったけど大満足だった。