『鳩の撃退法』佐藤正午
この面白さはどう表現すればいいんだろう。
『鳩の撃退法』(上下) 佐藤正午
かつては直木賞も受賞した作家・津田伸一は、「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして小さな街でその日暮らしを続けていた。そんな元作家のもとに三千万円を超える現金が転がりこんだが、喜びも束の間、思わぬ事実が判明する。―昨日あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ。偽札の出所を追っているのは警察だけではない。一年前に家族三人が失踪した事件をはじめ、街で起きた物騒な事件に必ず関わっている裏社会の“あのひと”も、その動向に目を光らせているという。小説名人・佐藤正午の名作中の名作。圧倒的評価を得た第六回山田風太郎賞受賞作。(Amazonより)
教養や哲学や訓示などを得られるからとかではなく、純粋に物語としての純度・密度がものすごかった。
上巻では、主人公である作家がこの作品を書いているという主観を俯瞰?しているような状況が新鮮だったし、ある劇作品をいろいろな役者・関係者の視点・角度から何度も観ているような感覚。
登場人物の一筋縄でいかない様子やクセの強さは伊坂幸太郎と似ている感じ。
はじまりの状況が上巻ラストに繋がっていて、結局物語が進んだのか何か解決したかよくわからない読後感で終わる。下巻での展開が全く予想つかない。
そして下巻。やっぱり何かがわかりやすく現れているわけではない。もちろん引っかかるセリフや印象的な場面もあるんだけど、煙に巻くような、人を食ったような世界観や登場人物同士ののらりくらりとしたやりとりを単純に楽しんだ方が良い気がする。
オーラスで真相に繋がる時の時空が巻き戻っていく様子は見事だった。
主人公はイメージ的に今より少し若い役所広司。