『彼女たちの犯罪』横関大

ずっと好きだった、作者の得意な騙し方。

 

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『彼女たちの犯罪』横関大

医者の妻で義理の両親と同居する神野由香里。夫の浮気と、不妊に悩んでいたが、ある日失踪、海で遺体として発見される。自殺なのか、他殺なのか。原因は浮気なのか、犯人は夫なのか。一方、結婚願望の強い日村繭美は、“どうしても会いたくなかった男”に再会。しかし繭美は、その男と付き合い始めることになり―。彼女たちに一体何があったのか。

 

個人的に抱いている作者のイメージらしからぬ、不穏なドロドロを予感させる始まり方。割とカラッとしてるものか刑事モノが多く、犯罪者側の視点ってあまりなかった気がする。

作者には毎作毎作まんまと嬉しい騙され方をしているので、一見無関係そうな些細な情景描写にも、今後なにか繋がってくるのかと注意を払って期待が高まる。

物語のキーマンたちが割と序盤で出会ってしまい、どう展開されていくのが気になってくる。冒頭にある通りの、ただの殺人事件てことはないだろうし。

その辺りから、死んだのは本当に由香里なのか?、理子がA子なのでは?と様々な疑惑が生まれてきて、第二部の最期には「やっぱり!」となり気持ちよかった。

それぞれの女性の手に入れたいもの、守りたいものが混ざり合い、何が悪で何が正義かの価値観が揺さぶられてくる。ほとんどは和明の自業自得って断罪することもできるんだけど、それだけでは済まない各々の遣る瀬無さや後悔も感じて、三者三様の感情が入り乱れている。

また260Pあたりで、「セダン」や喫煙へのおおらかさ、女性刑事の少なさ、携帯電話が登場しない、などのことから、「現代の話ではないな」と感じたのは横関大リテラシーが鍛えられている気がしてテンション上がった。

ラストの由香里のシーンは、彼女の「帰りたかった場所」が最後に和明と食事をしたドライブインってところが切なかった。もしくは人はみな戻れる場所があるわけではなく、その現在地点が結局自身が居るべき場所だってことを表してるのかな。素子の由香里が死んだ後の感情を含めて。

最後にバラしがある時代の錯覚をさせることが物語にもっと影響力があると更に面白く感じた。自分がそこまで自分が読み解けていないだけかもしれないけど。てか読み終わってから気づいたけど、昭和天皇崩御前だったから年末特別警戒態勢になってたのか…すげえ。

「悪女」とかではない、女性の愛憎入り乱れた執念や望むものを手に入れるための信念の交錯具合が読み応えがあった。女性がテーマの物語を昭和の終わりと平成の始まりを舞台に令和の始まりに出すっていうのが、昔から変わらず存在し続けているものを感じさせたしひねりが効いてて好きだった。

 

 

彼女たちの犯罪

彼女たちの犯罪

  • 作者:横関 大
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2019/10/10
  • メディア: 単行本