『ぼくらは、まだ少し期待している』木地雅映子

新感覚な読み心地だった。

 

『ぼくらは、まだ少し期待している』木地雅映子

町田そのこ氏、おすすめ!
「自分を誰かに明け渡さない。それが、誰かを救うことにもなるのだ」
札幌の進学校に通う土橋輝明は、数学と生物が得意な高校3年生。同学年の特進クラス国立文系で第一志望は北大文学部という秦野あさひとは、「優等生」同士ということで、学校行事にペアで駆り出されることも少なくない「腐れ縁」だ。ある日、あさひに相談を持ち掛けられた輝明は、予想外の内容に驚き、思わず席を立ってしまう。翌日、彼女が失踪したことを知った輝明は、片親の違う弟で「料理研究部」では彼女の後輩でもある吉川航とともに、その行方を追い始める。彼女はどこへ消えたのか? 輝明は東京へ、そして沖縄へ向かう。徐々にあさひの過酷な生い立ちを知るにつれ、輝明は……。
親に期待できなくても、人生を諦めなくていい――名作『氷の海のガレオン』『悦楽の園』の著者、10年ぶりの新作長篇。(Amazonより)

 

 

町田そのこの帯に惹かれて初めて読んだ作家さん。

 

冒頭の前口上の小気味よい文章でグッと掴まれたと思ったら、随所に散りばめられている現実的な事象や問題。それによって単純な読む楽しさだけではなくて、ドキュメントを読んでいるような現実味を感じて、遠い世界の出来事ではないように思わせてくる。

 

「家族再統合」というような知らなかった知識、家族神話のようなものからの脱却と、だけれでも捨てきれない親への期待とそれを経た上での良い意味での諦めと断絶、冷静な主人公が巡り巡って辿り着いたシンプルな愛情、そして予期していなかった人物との邂逅で生み出される濃密な時間。本当にたくさんの要素が詰め込まれていて、安易にジャンル分けできない何層にもなった面白さにのめり込んだ。

 

読み終わった後にはタイトルがグッと印象深いものになっていた。