『かがみの孤城』辻村深月

最高でした。

 

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かがみの孤城辻村深月

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

 

年末年始に帰省していた兄と小説の話になり、「2019年読んだ中で一番面白かった」と薦められ、本屋大賞獲っていたことは知っていたけどなんとなくスルーしていた今作を改めて。

ファンタジーだと思って読んでいると、中身にはがっつりいじめや不登校・家庭内問題と現実のシリアスさがある。

こころは大人しそうな何に対してもビクついているような女の子なのに、叶えたい願いに切迫した怖さがあって、いきなり黒目だけになったような変貌にゾクッとした。また二学期ぐらいから、追い詰められているからか、こころが現在の状況について母親に責任転嫁したりどんどん歪んでいく感じが垣間見え始める。

中盤、ストーリーは面白いし城の仕掛けも気になるんだけど、いじめの様子や苦悩がずっしり心に残って、早く読み進みたいけどページめくりたくもない不思議な読み心地だった。SF要素はあるけど、結局救いや解決は現実にしかない。

そしていよいよ三学期から謎や疑惑の核心に触れてくるようになるんだけどそれでもなかなか真相に辿り着けず、不可解さは深まるばかり。特にP303の母とのやり取りは、そっちの方向かなって感じで進んでたのに、新たな方向転換を示され思わずニヤついちゃう。空間じゃなくて時間がずれているのか?

2月以降もどんどん謎が深まっていきどんどん面白さが倍増していく。そこまでも十分面白いんだけどこの捲り方は異常。最終的には予想していたよりもはるかに緻密で濃厚な設定があって、知った後に振り返ると、スバルの「子供がウォークマンを持っていて一目置かれる」という描写とか、そういうことか!と思わせる箇所がいっぱいあって爽快だった。

現実世界での問題も、喜多嶋先生、東条さんや母など、こころが独りでたたかってきたことをわかってくれる人たちに支えられて、その人達に囲まれた安心感と、わかってくれない人や場所からは、呆れにも似た絶望もあるけど諦めて逃げても良いんだという割り切り方に救われるところが印象的で、不思議さや奇跡に頼らないしっかりした軸がある感じがして好きだった。

ラストの別れのシーンも、マサムネとスバルの「嘘を本当にする」っていうやり取りは本当にグッと心が掴まれたし、みんなこの城で友だちができて良かったなあとめちゃくちゃ感情移入した。考察サイトに載ってたけど、マサムネの好きなゲームの製作者の名前が「ナガヒサロクレン」で、「長久六連」となり「六連星」は昴の別名だから、二人の約束が叶ってるところなんかの細かい伏線回収も憎い。

そしてずっとオオカミさまは喜多嶋先生なんじゃないかと思っていたら、更にもう2つ驚きがあって、全員少しずつ救われて良かったなあと思ったし、喜多嶋先生が実は彼女で、物語の大きな縦軸となっているところが見事だった。作品全体を通してこころが転校生という存在に期待したりするシーンや、みんなが喜多嶋先生と会う似たようなシーンが繰り返し描かれているけど、その場面場面で感じ方や意味が全然違ってくるという表現方法と言うかリフレインの仕方が素晴らしかった。

もう一度じっくり細部まで味わいながら読み返したくなるし、この作者をもっと好きになることができた。

 

 

かがみの孤城

かがみの孤城