『図書室のはこぶね』名取佐和子

”みんなで楽しむためには、みんなが楽しめる環境を整える必要があるんだ。”

 

『図書室のはこぶね』 名取佐和子

1冊の本と、10年前の謎――この世界が愛おしくなる、瑞々しい青春小説!

10年前に貸し出されたままだったケストナーの『飛ぶ教室』は、 なぜいま野亜高校の図書室に戻ってきたのか。
体育祭を控え校内が沸き立つなか、1冊の本に秘められたドラマが動き出す。
未来はまだ見えなくても歩みを進める高校生たちと、
それぞれの人生を歩んできた卒業生たち――
海の見わたせる「はこぶね」のような図書室がつなぐ〈本と人〉の物語。(Amazonより)

 

 

体育祭1週間前という、祭りの準備の期間に出会った高校生男女が、小さな謎に遭遇し、どんどん周りを巻き込みながら、学校生活の問題や思ってもみなかった真実に対峙していく、王道な青春小説。

舞台が図書室というのもあり、出てくる作品が実際に存在するものだから、巻末のPOP含めて読んでみたくなるのも個人的に好き。

でも、その青春感や本との出会いよりも、なによりもこの物語から感じたのは、少数派に対する無関心と、それと同じくらい問題のある特別扱いについてだった。

なんで当人がそれを是としないのか、「普通だったらこのくらい」と乱暴に一括りにしたり、「こういう経験があるから」と勝手に推測することへの危険性と、「この人はこうだからこうしてあげよう」という対等ではない立場から差し伸べられる配慮の暴力性が記されていた。

アオハルっぽい物語や喜怒哀楽だけではなく、どの年代にも響く普遍性を持っているところが青春小説の良さのひとつだと思う。

爽快さだけではなく、しっかり考えるべきことを残された良い読後感だった。

みんなのための方舟には、手を差し伸べて引っ張り上げてあげることより、全員が自分で乗れる作りが必要ってことなのかと。