『夜が明ける』西加奈子

読むのずっと楽しみにしてた。

 

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『夜が明ける』西加奈子

直木賞受賞作『サラバ』から7年、本屋大賞第7位『i』から5年。西加奈子が悩み苦しみ抜き、全力で書き尽くした渾身の作品『夜が明ける』が、10月20日、ついに刊行。
「当事者ではない自分が書いていいのか、作品にしていいのか」という葛藤を抱えながら、それでも社会の一員として、作家のエゴとして書き抜いた本作は、著名人、書店員をはじめ、多くの人の心を揺さぶる救済と再生の感動作。(Amazonより)

冒頭は青春小説を思わせるような語り口。まるで金城一紀の『GO』のような。

主人公にとってアキという異物のような存在に出会うことによる人生の変化みたいなものが描かれていくのかなと想像していたら、それはそうなんだけど物語はどんどん二人の個人的な深みを増して混沌混迷していく。それは不運という要素を抱えながらも、2000年台以降の日本に間違いなく存在した社会のひとつの側面だった。ガムシャラにひとつのことを頑張ることでは乗り越えることが難しく、連鎖的に反応し合う社会環境というか。

サラバ!』や『i』のような感動があるわけではないかもしれないけど、壊れかけた主人公のもとを後輩を訪れる場面から、破滅に向かっていた物語に救いが差し込んできた。そして、その考え方というのは自分自身もどこかないがしろにしていたというか、ハッとさせられるものであった。

 

最近自業自得だとか、自己責任だとかいう言葉をよく聞くよねって。それはもちろん、適切な言葉としての機能があったかもしれないけど、最近は、大切な現実を見ないようにするための盾になってる気がするって。だからそんな盾はいらない、みんなもっと堂々と救いを求めてって。それで、自業自得だとか、自己責任とか、そんな言葉は、その人が安心して暮らせるようになって、本当に心から安心して暮らせるようになってから、初めて考えられるんだから。初めて負える責任なんだからって。

 

もちろ、根性は大切だと思うんです。頑張るべき時は頑張る、それは絶対に大切だと思うんです。でも、頑張っても、頑張っても、ダメな時はありますよね?

先輩には、先輩のために、声を上げてほしいんです。苦しいときに、我慢する必要なんてないんです。それって誰が得するんだろう?それに我慢を続けたら、きっと、声を上げた人を恨むようになっちゃうと思う。先輩が私のことを嫌いなのは、私が先に声を上げたからじゃないですか?

 

苦しかったら、助けを求めろ。

 

わずか10ページ程度のあいだに、いろんな表現で大切なことが何度も強調されていて、ここが一番のメッセージなんだなと感じる。そしてそれは自分の中でもどこか持っていて、個人の責任を理由に他者を切り捨てようとする考え方へのアンチテーゼだった。このシーンが、ラストに描写されている、ここ十数年の日本が切り捨ててきたものに対して想像を膨らませるきっかけを与えてくれる。

そしてフィンランドからの荷物が届いてからの、この小説のネタバラシのような部分を読むと、まんまと冒頭から錯覚されていたこと、アキラとアキ・マケライネンの関係など、作品の構造としての素晴らしさにも驚かされる。

幼い頃に台所に立っていた人物や、『男たちの朝』の現代など、ロマンやファンタジーを感じさせる部分もグッと来る。

 

とても面白いんだけど、わかりやすくまとめることができず、それは自分自身の現在進行系の考え方にも影響や反省を及ぼすものであって、真正面から向き合うには覚悟が要る物語だった。賛否両論あるかもしれないけど、間違いなく今の日本に必要な作品。

 

 

 

 

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