『作家刑事毒島』中山七里
これ出版して良いの?
『作家刑事毒島』中山七里
殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは、流行作家の毒島。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に!?出版業界激震必至の本格ミステリー!(Amazonより)
最近感じれてなかった、中山七里の性格悪そうな話をとことん満喫できた。
文芸・出版業界の人たちって、本当にこんな考え方なの?って読み進めれば進むほど思うけど、そこがやっぱり一般大衆と違う(と勘違いしている)人たちの思考なのかも。
読んでるともはやギャグだろって思うくらい身近な考え方から乖離しているけど、それが読んでて楽しくさせる。
で、その勘違いを毒島がことごとく低温で炙るようにネチネチ論破して絶望に突き落とすところが本当に爽快。
トリック云々よりも、作家たちの人間性と毒島の追い詰め方を楽しむための物語。
ただ誰かもツイッターかなんかで言っていたけど、「disり」って言葉は、元々の名詞が「dis」(disrespect)なんだから、なんか違和感。動詞の名詞化としては正しいの?細かいことだけど。
最後のエピソードで犬養がやっとドヤ顔で「俺の出番だ」的な感じで出てくるけど、結局今回特に良いところはない。全ては毒島。
あと最初のエピソードで出てきた「正しい努力」ってところは、岬洋介シリーズでも言われてたことで、何かを創り出す人には大切な要素なんだろうなと。
どこまでが真実で、どこからが誇張かはわからないけど、文芸を取り巻く人たちの心理や裏の顔を感じれてめちゃくちゃ楽しかった。書評のエピソードは、自分もこんなブログ書いてるから気をつけなきゃと。続編希望。
『駅までの道をおしえて』伊集院静
伊坂幸太郎がエッセイでオススメしていたので。
『駅までの道をおしえて』伊集院静
「ルーは死んでなんかいない」愛犬の死を信じられずに探し回る少女が見つけた、時間から取り残されたような古い喫茶店。店の老人がくれた写真には野球のユニフォーム姿の少年が写っていた。大切な相手を失い、悲しみにくれる人々に訪れた奇跡を描いた表題作をはじめ、かけがえのない時間に出逢える作品集。(Amazonより)
初・伊集院静。
基本的にわかりやすい物語が好きなんだけど、この作品の皆まで言わない、終着点まで書かない感じが好き。その分儚さとか哀愁みたいなものがより強く感じれる。短編集の長所である、あとを引く物足りなさが十分に発揮されていると思う。
登場人物がリンクしているとか、平行世界とかそういう感じじゃなくて、篇ごとにエピソードに出ていた土地や職業がさりげなく繋がっている感じが、いい意味でドヤ感がなくて好感が持てる。
最初はとっつきにくそうかなとも思ったけど、早く篇を読み終えたくなる、でも物足りなさや寂しさも残る作品でした。わかりやすい伏線回収やどんでん返しばかりじゃなくてこういうのも良いな。
最後の「チョウさんのカーネーション」は感動。
『マスカレード・イブ』東野圭吾
早速続編短編集。
『マスカレード・イブ』東野圭吾
ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。「マスカレード」シリーズ第2弾。(Amazonより)
どの篇も読み応えがあって、しかも前作に比べて女性のしたたかさや妖艶さ、ヒロインである尚美の推力の高さと観察眼の鋭さが際立っている気がした。
あと、主人公含め、ホテル関係者の宿泊客への姿勢が、「お客様」への成熟された奉仕の態度だけではなく、「客」という商売相手としての割り切った態度や交渉の仕方がより多く表現されてて、人間臭くて良かった。
また、宿泊客の「仮面感」がより強く感じた。
エピローグの前作へのリード部分となる形式が、また『マスカレード・ホテル』読もうかなって気にさせてくれる。
間違いなく新作も読む。
『レインツリーの国』有川浩
『空飛ぶ広報室』に続いて。
『レインツリーの国』有川浩
きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった―。(Amazonより)
ある意味、「2時間の恋愛映画にしやすそうだな」っていう感じ。
寒イボ立つぐらい青臭い匂いするんだけど、主人公たちは20代半ばだから、自分がただ年取っただけかもなと痛感。。
それに加えて、歯がゆいというかいじらしい原因が、聴覚障害というシビアなものなので、甘酸っぱいのかそうじゃないのかわからなくなる不思議な読み心地。
ラストはあっさりまとまったなーと云う印象だけど、ラストページの結び方が良い感じでした。
他の作品(『図書館戦争シリーズ』)に登場した物語を、実際に書きおろすっていうが好き。
- 作者: 有川浩,徒花スクモ
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: 文庫
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『残り全部バケーション』伊坂幸太郎
タイトルが秀逸。
『残り全部バケーション』伊坂幸太郎
当たり屋、強請りはお手のもの。あくどい仕事で生計を立てる岡田と溝口。ある日、岡田が先輩の溝口に足を洗いたいと打ち明けたところ、条件として“適当な携帯番号の相手と友達になること”を提示される。デタラメな番号で繋がった相手は離婚寸前の男。かくして岡田は解散間際の一家と共にドライブをすることに―。その出会いは偶然か、必然か。裏切りと友情で結ばれる裏稼業コンビの物語。(Amazonより)
期待以上に面白かった。
エッセイ『3652』に、このタイトルのエピソードが載っていたけど、文中でのインパクトあるというか印象的だった。いい言葉。
篇ごとのストーリーは 軽快に読めて、読み口は滑らかなんだけど、伊坂幸太郎の他の作品と比べても、心に残る言葉が多々ある。
「自分探し?探さないですよ。俺、ここにいますから」(p23)とか、(現代の風潮へのカウンターパンチ的な)
「手作りパンの焼き具合を説明するかのように」(p56)とか、(秀逸すぎる比喩)
特に、「二分しか変わらないとか言ってもな、俺なら飛ぶぜ。飛べたらやっぱり嬉しいだろうが」とか。こういう風に行動できる大人になりたいと思った。
だけど、2篇目のオチのセリフが理解できなかった。。大事な部分読み飛ばしたのかな?
最初の篇で岡田が死んだもしくは生死不明の雰囲気漂わせておいて、最後の篇でそれを再び蘇らせて、だけど最後まで真相はわからないっていう流れがニクすぎる。大ラスの最後の一文が洒落が効いててニヤけてしまう。
伊坂幸太郎作品の中でも、かなりオススメです。
『バイバイ、ブラックバード』伊坂幸太郎
信頼できる安定感。
星野一彦の最後の願いは何者かに“あのバス”で連れていかれる前に、五人の恋人たちに別れを告げること。そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。特別収録:伊坂幸太郎ロングインタビュー。
設定というか「あのバス」が『終末のフール』の終末感となんか似てる気がする。漠然としてるというか比喩じゃないんだけど現実味がないというか。
それぞれのストーリーの女性との出会い方が秀逸なんだけど、特に「女優女」の話のラストはもはや感動した。「パンになりたい!」ってなんかよくわかんないんだけどなんかわかる。
オーラスの「キック」のリピートがすごく好き。篇を重ねるごとに「繭美」に人間味が感じれるじゃないけど、徐々に理解できるかもしれない生物感を感じれるのも良い。
いくら間を空けてもすんなり読めるのでオススメです。
『マスカレード・ホテル』東野圭吾
久しぶりの東野ミステリー。
『マスカレード・ホテル』東野圭吾
都内で起きた不可解な連続殺人事件。容疑者もターゲットも不明。残された暗号から判明したのは、次の犯行場所が一流ホテル・コルテシア東京ということのみ。若き刑事・新田浩介は、ホテルマンに化けて潜入捜査に就くことを命じられる。彼を教育するのは、女性フロントクラークの山岸尚美。次から次へと怪しげな客たちが訪れる中、二人は真相に辿り着けるのか!?いま幕が開く傑作新シリーズ。(Amazonより)
東野圭吾を読む時にいつも思うのが、「割とボリュームあるなー」て初めは感じるんだけど、会話劇がスムーズなのか、心象描写がわかりやすいのか、すごくページのめくり具合が早くて充実感に満ち溢れさせてくれる。
内容的にはがっつりサスペンスを満喫したってよりも、『ホテルマン』ていう知らない世界の現実や矜持を知れたことの方が良かった。変わらずの理系トリック?ももちろん流石だったけど。
この人の醍醐味ってトリックの巧さよりも、バディ感というかそういう心の通い具合なのかと久しぶりに読んで感じた(遅いのかもだけど)。
シリーズ物なんで全部読もうと思います。