『オブリヴィオン』遠田潤子

今作も大満足でした。

 

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『オブリヴィオン』遠田潤子

森二が刑務所を出た日、塀の外で二人の「兄」が待っていた―。自らの犯した深い罪ゆえに、自分を責め、他者を拒み、頑なに孤独でいようとする森二。うらぶれたアパートの隣室には、バンドネオンの息苦しく哀しげな旋律を奏でる美少女・沙羅がすんでいた。森二の部屋を突然訪れた『娘』冬香の言葉が突き刺さる―。森二の「奇跡」と「罪」が事件を、憎しみを、欲望を呼び寄せ、人々と森二を結び、縛りつける。更に暴走する憎悪と欲望が、冬香と沙羅を巻き込む!森二は苦しみを越えて「奇跡」を起こせるのか!?(Amazonより)

 

『雪の鉄樹』で食らわされた作者。

今回も冒頭から期待通りに陰鬱で、希望の光なんてほとんど見えてこない。

どんだけ許されないと自分ではわかっていても、さらに追い打ちをかけてくる愛した人たち。罪を背負うことを認め、周りから忘れられたいのに、決して忘却という恩赦は与えられない。

期待通りに終始どん底まで暗く陰鬱で、希望の光なんてほとんど見えてこない。でもこの人の話が大好きなのは、都合良く事態が好転するんではなくて、暗闇でもがきにもがいたからこそ、最後にかすかな光が見えてくるから。

今作は『雪の鉄樹』よりも伏線回収の見事さが際立っていて、全員が他人に言えない悩みや苦しみがあって、それが徐々に解けていくところがめっちゃ良かった。

「開かれた世界は閉じた世界よりも、ずっと地獄だった」とか「真の赦しとは忘れ去られることだ」とか「『いつか』と『今さら』は似ている。どちらも辛い現実から避難する呪文だ」とか、希望だけの明るい話では決して気づかないことがたくさん書かれていた。

特に、「もう空とつながりたくない」とか空の青さが許しではなく苦しみであると表現しているところが、一寸ではなく永遠に続いていくような苦しみを表しているように感じた。

ラストにかけて徐々にどん底の暗闇が薄まってきて、でも全ては元通りにはならなくて、そんな状況でも何度でもやり直せばいいというこの小説唯一と言ってもいいくらいの希望が出てきて、あれだけ嫌いだった空の青さが赦しの色になるという最後が見事でした。

 

本のデザインもめちゃくちゃ内容と合っていて、かなり大満足な作品でした。

 

 

オブリヴィオン

オブリヴィオン

 

 

 

雪の鉄樹 (光文社文庫)

雪の鉄樹 (光文社文庫)

 

 

 

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『アルキメデスは手を汚さない』小峰元

今更すぎるがいい小説に出会えた。

 

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アルキメデスは手を汚さない』小峰元

アルキメデス」という不可解な言葉だけを残して、女子高生・美雪は絶命。さらにクラスメートが教室で毒殺未遂に倒れ、行方不明者も出て、学内は騒然!大人たちも巻き込んだミステリアスな事件の真相は?’70年代の学園を舞台に、若者の友情と反抗を描く伝説の青春ミステリー。江戸川乱歩賞受賞作。(Amazonより)

 

地元の本屋でお勧めしていたので購入。

買ってから驚いたけど、45年前に発売された小説だった。

読み始めて思ったのが、何か意図があってなのか、そういう風潮だったのか、登場人物の名前が割と難しいのに、フリガナが振ってないことに違和感を感じたけど最後まで分からず。

ストーリーとしては、学園モノの青春ミステリーを、コロンボみたいなイメージの老年に近い刑事が子供たちに翻弄されながらも核心に迫っていく。

自分が生まれるより昔の話なのに、刑事の苦悩している描写を読むと、いつの時代も「若者・思春期の子供」というのは大人の理解の範疇の外にいるんだなと感じる。個人的に「最近の若いもんは」的なセリフは大嫌いなんだけど、むしろいつの時代も世代間での隔りってのはあるんだなと。読んでても全く違和感なくそこらへんのズレはスッと入ってくる。

ずっと、その隔りを感じている刑事だけど、最終的には自分の子供ほど年齢の離れた容疑者に「かっこいい」と感じるところが個人的に好きだった。子供だからこそ、滑稽なほど純粋だからこその無垢な格好良さがそこにはあった。

また、容疑者・被害者となる柳生家は、どこかドライな関係かと冒頭では思ったけど、悲しいほどの家族愛をそれぞれ持っていた。

トリックの巧妙さや伏線回収のうまさとかよりも、人物・世代描写を楽しむ作品。

 

ばあちゃんの家に、作者の他の作品もあるとのことなので、読み漁ります。

 

 

 

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

アルキメデスは手を汚さない (講談社文庫)

 

 

 

『君を一人にしないための歌』佐藤青南

またもやTSUTAYAで推されていたので。

 

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『君を一人にしないための歌』佐藤青南

中三の夏、全国出場をかけた吹奏楽コンクールで大失敗を犯したことをきっかけに、ドラム演奏をやめた僕―高校入学から一カ月が過ぎたある日。七海という見知らぬ女子生徒に強引に誘われ、バンドを組むことになってしまう。豊富な音楽知識をもつ凛も加入してバンド活動が始まるかと思いきや、ギタリストだけが見つからない!メンバー募集をかけるが、やってくる人は問題児ばかりで…なぜかバンドをすぐにやめてしまう!?いつになったら演奏できるのか?往年のロックの名曲も謎にからむ日常ミステリーの新定番、爆誕!(Amazonより)

 

以前も作者の『たぶん、出会わなければよかった嘘つきな君に』もTSUTAYAで推されていたが、今作は正直途中まではゴリ推ししすぎじゃないかと、ハズれだったかなと思いつつ読み進めていった。

主人公たちの身の回りで起きる小さな謎を解き明かしていくんだけれども、種明かしが少し期待外れで、これだったら米澤穂信の『古典部シリーズ』の方が全然良かったなと感じていた。

だけれども、徐々に謎の質や、各エピソードのテーマ曲への理解というか見解が深まっていき、スロースターター的に面白くなってきた。

そして、途中で単純すぎないかと思った主人公の七海への評価の変わりっぷりも、最後まで読むと七海の背景がわかって納得できる。

文中で印象に残ったところは、

『他人の夢を壊す権利は、誰にもないのです。そんなことを許されません。』とか、

『いじめた連中のことなんて、放っておけよ。相手の不誠実を理由にこっちが不誠実を働いたら相手と同じになる』

って部分が、忘れていた忘れちゃいけない青臭いけど大事な感覚を思い出させてくれた。

そして最後にすべて繋がる些細な描写の回収の仕方が見事すぎて、作品への評価が一転した。理由を理解して思い直して読み返すと切ない。

ラスト面白さは格別なので、3人の中学のエピソードも含めてもっとがっつり読みたかった。

 

 

君を一人にしないための歌 (だいわ文庫 I)

君を一人にしないための歌 (だいわ文庫 I)

 

 

 

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『愚行録』貫井徳郎

映画が面白かったので。

 

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『愚行録』貫井徳郎

ええ、はい。あの事件のことでしょ?―幸せを絵に描いたような家族に、突如として訪れた悲劇。深夜、家に忍び込んだ何者かによって、一家四人が惨殺された。隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる、「事件」と「被害者」。理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか。確かな筆致と構成で描かれた傑作。『慟哭』『プリズム』に続く、貫井徳郎第三の衝撃。(Amazonより)

 

実写で感じていたことではあるけれども、取材相手(証言者)の話は、言い訳のオンパレードで、自己防衛をし、被害者や関係者のことを都合の良いように解釈したり、理想化したりしている。

また、エピソードの事実だけを客観的に追っていくと、明らかに被害者夫婦が悪いように思えるのに、誰もはっきりとした貶しや非難をせず、逆に擁護しているのが薄気味悪い。

映像とは違い、文章でストーリーを追っていくと、主人公(お兄ちゃん)の主張や存在感がほぼなく、取材相手が独白しているような形式で、こっちがどんどん捲し立てられて、みんなどこか狂っているような印象を受けた。

取材と面会の場面切り替えが、映像より明確で、妹については冒頭はまあ実写の印象と変わらないかなと思ったんだけど、ラストに向かうにつれて、妹の言葉遣いが荒くなってきて、壊れ具合がより顕著になっていき、その上で夏原さんと仲良くなる目的を知ると恐ろしくなった。

お兄ちゃんが宮村さんを殺す描写が実写よりも原作の表現の方が淡々としている分、不気味で好みだった。

知っていても、ラストの衝撃は大きく、貫井徳郎のファンに一発でさせてくれました。

 

 

愚行録

愚行録

 
愚行録 (創元推理文庫)

愚行録 (創元推理文庫)

 

 

 

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『あの家に暮らす四人の女』三浦しをん

三浦しをんで初めての感覚。

 

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『あの家に暮らす四人の女』三浦しをん

謎の老人の活躍としくじり。ストーカー男の闖入。いつしか重なりあう、生者と死者の声―古びた洋館に住む女四人の日常は、今日も豊かでかしましい。谷崎潤一郎メモリアル特別小説作品。ざんねんな女たちの、現代版『細雪』。(Amazonより)

 

文章の主体がどんどん変わっていき、視点が目まぐるしく切り替えられる。というか、はるか上空からの「神様の視点」だなと。

今まで読んできた、『舟を編む』のような静かながらも情熱がある感じや、『光』のような仄暗く陰鬱とした雰囲気でもなく、陽気だけれども少し影があるような空気感で、文体の洒落感というかクドさが森見登美彦の『夜は短し歩けよ乙女』のようだった。

現代が舞台なんだろうけど、大正浪漫的な空気を感じた。

各々の日常を主観を変えながら淡々と描いていて、ここまで登場人物の顔をイメージできないのも個人的には珍しかった。もちろん、イメージできないからつまらないとかではなく、物語の本筋を掴みきれないもどかしさがまた面白かった。

ただし、途中から主人公の親子の繋がりがメインになってくると、冒頭で感じた「神様の視点」についても見当違いではなかったと気づく。

また、血の繋がりではない「四人の家族」についての、文中の『口うるさかったり理解不能だったりする人がいる。こういう空間を「うち」というのではないか。』という表現が、家族ってそういうものだよなと共感。

日々の暮らしで決定的な出来事があるわけではないけど、各々の考え方の分岐点があり、この四人はいずれ別れることはあっても、このままの日常を終わりを迎える時まで過ごしていくんだろうなと感じさせる終わり方だった。

 

元ネタ?も気になったので、『細雪』も読んでみようと思います。

 

 

あの家に暮らす四人の女

あの家に暮らす四人の女

 

 

 

 

『SOSの猿』伊坂幸太郎

予想外の内容。

 

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『SOSの猿』伊坂幸太郎

三百億円の損害を出した株の誤発注事件を調べる男と、ひきこもりを悪魔秡いで治そうとする男。奮闘する二人の男のあいだを孫悟空が自在に飛び回り、問いを投げかける。「本当に悪いのは誰?」はてさて、答えを知るのは猿か悪魔か?そもそも答えは存在するの?面白くて考えさせられる、伊坂エンターテインメントの集大成。(Amazonより)

 

最初の2Pで「これめっちゃ読み易い」と思ったのに、読み進めていくうちに「え?」って内容と展開に。

古典?と交錯して時間軸の仕掛けもあり、全部は一読で理解できない感じ。こういうストーリー読むと、「小説家ってすごい」って改めて思う。

伊坂幸太郎特有の『素直に認めたくない愛すべき人』ってわけじゃなくて、単純に登場人物同士が、意思疎通というか共感があまりできていない感じがして、新鮮だしそこがまた面白かった。

 

ずっと霧がかったような感じで進むんだけど、その中でも心に引っかかるセリフは多かった。

『歌ってのはね、くだらないメッセージじゃなくて、もっと漠然とした隕石みたいなものをぶつけるものなんだ。だから、歌の意味とかメッセージを探ろうとする奴はね、だいたい失敗するよ。もやもやした隕石を言葉になんてできない』(P242)

とか、

『どんな親だって、子供の未来は心配なんだよ。たとえば、わたしが漫才しないで、あなたの心配ばかりしてたらどう思う?鬱陶しくない?』(P275-276)

とか。

 

なかなか内容は簡単に没頭できるわけではないんだけど、徐々に理解できていく感じも読んでて楽しいし、最後の締めのセリフが爽やかというか子供っぽくて好きでした。

 

 

 

SOSの猿 (中公文庫)

SOSの猿 (中公文庫)

 

 

『東京カウガール』小路幸也

ぱっと見、酪農の話かと思った。

 

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『東京カウガール』小路幸也

その夜、カメラマン志望の大学生・木下英志は夜景を撮っていた。人気のない公園で鈍い音を聞きつけカメラを向けると、そこには一人の女性がいた。彼女は屈強な男たちを叩きのめすと、車椅子の老人を伴い車へと消えた…。後日、改めて画像を見た英志は気づく。―似ている。横顔が、あの子に。カメラが捉えた不可解な事件に隠された哀しい過去とは?(Amazonより)

 

作者にしては、だいぶ血生臭い感じで骨の軋む音が聞こえてそうな描写もあって意外だった。

 

ただやっぱり小路幸也らしく、どこか達観しているような主人公の考え方は読んでて感心するし、話は重いのに軽く読める文体はさすがでした。

 

エピソードが限られても、場面は変わらず地続きになってる進行の仕方はこの人ならではで、よりスピード加速させる。数字で区切ってるところと☆マークで区切ってるところがあるのはなんかの意図があるんだろうな。

 

残りページ数を気にしながら面白いけど、どうやって収束させるんだろうって期待膨らませといて、大きな展開やどんでん返しなくすっきり爽やかに終わるラストもなんか微笑ましくて好き。

 

ホント誰かのために何かしたいっていう、思いやりがある人たちしか出てこなくて、こんな人たちに囲まれて暮らせたら幸せだろうなーって思う。主人公の就職した会社が興味深い。

 

初めてスマホでブログ書いたけどめっちゃ楽だし意外にも文章出てくる。

 

 

東京カウガール

東京カウガール