『雲を紡ぐ』伊吹有喜
やっぱりこの人の話は沁みる。
『雲を紡ぐ』伊吹有喜
壊れかけた家族は、もう一度、ひとつになれるのか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布」ホームスパンをめぐる親子三代の心の糸の物語。(Amazonより)
職人の厳しさと手仕事と田舎のあたたかさのどちらも味わえる作品。
小川糸の世界観に似ている読み心地。
家族の再生の話であり、世代を横断して信頼関係や絆をもう一度紡いでいくのだけれど、娘と母のわだかまりが長く残り、娘と父とのほうが先に打ち解け合うっていう展開もあまり読んだことがなく、珍しく感じた。そこには親子関係だけではない、同性としての妬み嫉みもあったりして生々しくてよかった。
羊毛を染め、糸を紡ぎ、布を織るという昔から変わらない作業に対する誇りと職人としての矜持を感じるだけではなく、古来より続く営みへの神秘性や、人々が託してきた「だれかへの願い」も伝わってくる。
『丁寧な仕事』と『暮らしに役立つモノづくり』、モノは刻々と変化すれど、いつの時代も社会人としてとても大切なことだと思った。
また、祖父が美緒に作業を教えていく過程で、今までの人生・日常生活で学び損ねた溢れた、自己や他者との向き合い方を訥々と示しているところも印象的。
親も子も孫も各々が気づき悩んでいく中で相手に対する考え方が変化し、途切れかけた関係が再び撚り合いゆっくり紡がれていく展開が味わい深い。
奇跡的な終結が待ち受けているわけではなく、決して快晴ばかりではなく曇るときもある各々の生活での現実感のある終わり方にも好感が持てる。
服飾という時として不必要で華美に映る世界での、褪せることのない大切な付加価値を感じることができた。