『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ

著者の作品の中でも特に好きだった。というか読むタイミングが良かった。

 

『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ

死にたいキャバ嬢×推したい腐女子

焼肉擬人化漫画をこよなく愛する腐女子の由嘉里。
人生二度目の合コン帰り、酔い潰れていた夜の新宿歌舞伎町で、美しいキャバ嬢・ライと出会う。
「私はこの世界から消えなきゃいけない」と語るライ。彼女と一緒に暮らすことになり、由嘉里の世界の新たな扉が開く――。

「どうして婚活なんてするの?」
「だって! 孤独だし、このまま一人で仕事と趣味だけで生きていくなんて憂鬱です。最近母親の結婚しろアピールがウザいし、それに、笑わないで欲しいんですけど、子供だっていつかは欲しいって思ってます」
「仕事と趣味があるのに憂鬱なの? ていうか男で孤独が解消されると思ってんの? なんかあんた恋愛に過度な幻想抱いてない?」
「私は男の人と付き合ったことがないんです」

推しへの愛と三次元の恋。世間の常識を軽やかに飛び越え、幸せを求める気持ちが向かう先は……。
金原ひとみが描く恋愛の新境地。

Amazonより)

 

 

他者を理解したい願望と他者と共有できないことへの絶望、日々オートで判断していた価値観を揺さぶられる作品。

 

各々が強烈な個性を放ち世間一般からは程遠いような尖った歪な第一印象を持つのだけれど、婦女子の主人公が会話を重ねるたびに固定観念や偏見を除かれていき、理解し始めたというよりは理解できなくても適切な距離と接し方を学んでいく。

歪に思われた4人が補い合いながらアサヒの病室で笑えたことに感じる安心感は、今作の最大の共感であり救いだった。

 

自身の死生観は簡単には変わらないだろうし、自ら命を絶つことは良くないとは思う。だけれども当事者としてその決断に至る思考の変遷や理由は、どこまでいっても他者が理解し切れるものではないし、想像とは全くかけ離れた、悲観さを微塵も感じさせないものである可能性もある。そこの隔たりをしっかり認識した上で、相手の目線で世界を見てみること、自分の世界を蔑ろにしないことが大切なんだと感じた。

 

 

“誰しも人と人との間には理解できなさがでんと横たわっていて、相手と関係継続を望むのであれば、その理解できなさとどう接していくか、どう処していくかを互いに考え続けなければならない”

 

“人が人によって変えられるのは四十五度まで。九十度、百八十度捻れたら、人は折れる。”

 

”生きたいならどんな理由でも何でもいいからやりたいことやりながら生きていくしかない”