『すべて忘れてしまうから』燃え殻

訥々と面白い。

 

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『すべて忘れてしまうから』燃え殻

いまはない喫茶店、帰りがけの駅のホーム、予定のなかったクリスマスイブ、点滴の終わりを告げるナースコール、安いビジネスホテルの廊下、知らない街のクラブ、朝のコンビニの最後尾、新幹線こだまの自由席、民宿の窓でふくらむ白いカーテン、居場所のないパーティー会場―ふとした瞬間におとずれる、もう戻れない日々との再会。ときに狼狽え、ときに心揺さぶられながら、すべて忘れてしまう日常にささやかな抵抗を試みる「断片的回顧録」。(Amazonより)

 

30代に入ったあたりから、好きな作者や人物、好きな文化に没頭している人のエッセイを読むのが好きになった。現在に至るまでの感情や考え方、生活を除くのが楽しくなった。

でもこの作者の人生・生活は決して手放しで憧れるものではない。良い面なんてほんとい僅かなのかも知れない。

だけど日々起こる出来事に、自身の今までの経験をつなぎ合わせ感情をあぶり出し、些細なことながらも暗い色かも知れないけど鮮やかにして切り取っている。その瞬間瞬間の切り取り方が見事でどんどん読み進めてしまう。

おそらく大多数の人の人生はこの作者のようなものだと思う。小さな喜劇と悲劇の繰り返しで社会や世間に翻弄されてしまう。でもその出来事をどうやって自分の人生とリンクさせて留めていくかで豊かさが変わってくるんだと思う。

イラストも相まって人生の切なさとそれでも訪れてくれる少しの豊かさを味わえる作品。

 

 

すべて忘れてしまうから

すべて忘れてしまうから

  • 作者:燃え殻
  • 発売日: 2020/07/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)