『ブラックウェルに憧れて』南杏子

フィクションだとは思っちゃいけないんだろうな。

 

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『ブラックウェルに憧れて』南杏子

医大の解剖学実習で組まれたのは、異例ともいえる女性4人だけの班だった。城之内泰子教授の指導の下、優秀な成績で卒業した彼女たちは、真摯に医療の道を歩む。医学部不正入試と過酷な医療現場。5人の女性医師がつむぐ涙と希望。―そして秘められた意外な真実。デビュー作『サイレント・ブレス』で話題の現役医師が描く切実な人間ドラマ。(Amazonより)

 

現役の医師として、医療現場のリアルな事情が生々しくて好きな作家の一人だったけど、今回は女性医師に対する差別や不正入試について。

 

毎度のことながら、エピソードの起伏に夢中になってしまうけど、これは純粋なフィクションではなく、今尚日本で現実に起こっていることに限りなく近いことなんだということを留意しておかなければならない。胸糞悪くなるような偏見や中傷に辟易するし、簡単には変わらない現実にもどかしさはあるけど、進んでいかなければならない。

 

興味深かったのは、4人の各エピソードの終着点の状況、踏ん切り方というか問題の解決の仕方にそれぞれバラつきがあって、そこにも女性たちが置かれている現状の厳しさをひしひしと感じる。

 

そんな中での城之内教授の最終講義。

解剖学という自身の専門分野に対する誇りや矜恃、4人に伝える「患者の役に立つ人が医師なのだ」というシンプルかつ未来永劫揺るがない真理にグッときた。

 

そういう終結に向けたあたたかい雰囲気を感じている中での、不正入試に関する告白。衝撃が大きすぎて思わず声を挙げた。ここまで来てこの展開を持ってくるか。。

 

20年越しの懺悔を受けたうえでの、4人の考え方や向き合い方は素晴らしいし、すべてがそこで万事解決、めでたしって感じではなく、あくまでそのまま地続きに現実は続いていくってところも、最後まで読み手に投げかけるものが多くて考えさせられる。

「女には欲望がないというファンタジーのような世界観はいい加減、終わりにしてもらいたい」

業種かかわらず関係する大切な事実だと思う。

 

エピローグ(タイトル最高)でそれぞれの多少なりとも明るくな理想な未来を覗けたのが、せめてもの救いだった。

 

作品には直接関係ないけど、去年話題になった医学部不正入試による不合格者であった「crystal-z」の『Sai no Kawara』という曲を是非聴いてほしい。

 

 

『もし社会が女性の自由な成長を認めないのなら、社会のほうが変わるべきなのです』

 

 

 

 


crystal-z Sai no Kawara

 

news.yahoo.co.jp

 

 

ブラックウェルに憧れて

ブラックウェルに憧れて

  • 作者:南杏子
  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)