『はるか、ブレーメン』重松清

”幸せに生きた人生と、幸せに締めくくられた人生とは違うんだ”

 

『はるか、ブレーメン重松清

▶︎あらすじ

私を捨てた“お母さん”の走馬灯には、何が映っているのだろう。

人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。

小川春香、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親である祖母も亡くし、正真正銘のひとりぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが走馬灯を描く旅をアテンドする〈ブレーメン・ツアーズ〉。お調子者の幼馴染、ナンユウととも手伝うことに。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい」と連絡が来るのだが……。

私たちの仕事は走馬灯の絵を描くことだ。

それは、人生の最後に感じるなつかしさを決めるということでもある。(Amazonより)

 

 

▶︎感想

昔から大好きな作者に、ここに来てこんなに喰らわさられることがあるんだと驚いたし、幸せだった。

現実からはみ出した能力が大事な要素の一つになっているんだけど、そのある種のリアリティのなさを感じさせないほど、今を生きて死に向かってゆくなかでの大切な言葉がたくさん詰まっていた。

「結果よりも過程が大事」とか、「悔いのないように生きる」とか、よく聞くし大事なことだとは思うけれど、それとはまた別物の、「死ぬ瞬間をどういう気持ちで迎えられるか」という、新たな観点をもらえたし、その点においては苦しみと喜びの多寡はあまり重要でないかもしれないと教えてくれた。

 

”大切な思い出は、正しい思い出とはかぎらないからです”

 

”幸せな思い出と、幸せそうな思い出というのは、違うんだ”

 

”楽しい思い出が残ってるからつらくなることも、人間にはたくさんある”

 

”つらい思い出のどこが悪いんだ?”

 

”悔いのない人生というのは、自分は一度も間違ってこなかったという、ずいぶんずうずうしい人生かもしれないぞ”

 

”悔やみつづけても間違いは消えない。でも、間違えたことに気づかないと、悔やむことすらできないんだよ”

 

”恨んでた人はいるけど、いま恨んでいる人はいない”

 

大上段に構えてではなくて、あくまで自然な会話の中で気づかせてくれる投げかけがたくさんあって、中盤は思わずため息が漏れるほどだった。

 

日々の過ごし方や残していけるものに目を奪われがちになってしまうけれど、間違いも失敗も後悔も、マイナスがあるからこそのプラスとかではなく、返上しなくてもマイナスも含め全てが大切で不可欠な要素であり、全てを抱いて死を迎えるのだと、肩の力が少し抜けて、焦りも減った気がする。

 

あと、主人公親子の病室での会話もすごくいい展開で、お互いの心が開いていく様子が目に浮かぶようだった。

 

ふとした時に読み直して、大切なことをまた教えてもらいたい。

 

 

 

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