『チア男子!!』朝井リョウ
珍しく完全なる青春だった。
『チア男子!!』朝井リョウ
大学1年生の晴希は、道場の長男として幼い頃から柔道を続けてきた。だが、負けなしの姉と比べて自分の限界を悟っていた晴希は、怪我をきっかけに柔道部を退部する。同時期に部をやめた幼なじみの一馬に誘われ、大学チア初の男子チームを結成することになるが、集まってきたのは個性的すぎるメンバーで…。チアリーディングに青春をかける男子たちの、笑いと汗と涙の感動ストーリー。(Amazonより)
作者の初期の頃の作品だからか、今よりも登場人物それぞれのエピソードがてんこ盛りで書きたいこといっぱいあるんだろうなって印象だった。
大学生の男子チアを舞台とした群像劇。作者の作品って、どこか一歩引いたり途中でなにかに気づいたり悟ってしまうような印象が多いけど、今作は真正面から青春。しかもちゃんと大学生の青春。
そして、高校までのように爽やかさや悔しさだけのカラッとしたものではなく、ひとりの個人に対して、好きな部分と、不満もしくは劣等感を抱く部分どちらもあり、全部ひっくるめて一体どっちの感情なんだという、モラトリアム特有の不安定さが文章からも伝わってきて、一息でサッと読めない感じが新鮮だった。
イチローが思う「好きの反対の嫌いではない。でも何の反対かはわからない。」とか。それぞれの発することができない迷いがひしひしと伝わってくる。
技や技術を純情に会得して進む安心感とどこか噛み合っていないギクシャクとした感じも交互に押し寄せるから、更にその綱渡りのような練習の日々に緊張感が増していく。
そのアンバランスさと緊張感は最後の最後まで、全国大会の二分三十秒の最後まで続いていき、読者を安易に安心させることはない。
そしてそれぞれが応援したい人、観ていて欲しい人にしっかり伝わったか、打ち勝ちたいものに勝てたかはわからないし、彼らがこの大会の後もチアを続けるかもわからない。
それでも自分を諦めかけることはあってもチームを諦めず、最後の舞台に臨むまでの精神的な挫折と再起と成長は胸を熱くさせるし、大学生というどこか惰性が付きまとってしまうような年齢層であっても、刹那的な輝きと儚さを感じることができる。
著者の最近の作品にあるような、何者でもなかった者たちのその後の人生、みたいな現代を写す鏡のような物語も大好きだけど、明確なテーマがあって本当に純粋に表現したいことだけを書いているような今作もまた別の魅力があって素敵だった。
『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦
久しぶりのこの世界観。
『四畳半タイムマシンブルース』森見登美彦
炎熱地獄と化した真夏の京都で、学生アパートに唯一のエアコンが動かなくなった。妖怪のごとき悪友・小津が昨夜リモコンを水没させたのだ。残りの夏をどうやって過ごせというのか?「私」がひそかに想いを寄せるクールビューティ・明石さんと対策を協議しているとき、なんともモッサリした風貌の男子学生が現れた。なんと彼は25年後の未来からタイムマシンに乗ってやってきたという。そのとき「私」に天才的なひらめきが訪れた。このタイムマシンで昨日に戻って、壊れる前のリモコンを持ってくればいい!小津たちが昨日の世界を勝手気ままに改変するのを目の当たりにした「私」は、世界消滅の危機を予感する。『四畳半神話大系』と『サマータイムマシン・ブルース』が悪魔合体?小説家と劇作家の熱いコラボレーションが実現! (Amazonより)
前作の世界観って、独創的で癖強くてキャラの独り歩きが半端ないイメージで、好きだけど中々すっと頭に入ってこない記憶があった。
でも今作はコロボ相手が映画で知っていたこともあり、ややこしい時間軸をややこしいキャラクターが輪をかけてややこしくしていたけど、割とすんなりのめり込めた。
そしてアイロニカルというか厭世的な感じかなと思ったら、タイムトラベル物の王道パターンのような期待感が湧く展開があり、ラストはこれぞ大学生というような予想外の爽やかさがあった。
でも何かを得たりメッセージを探したりというような読み方ではなく、ただこの世界観を堪能するという、贅沢で怠惰な味わい方をできるところは作者ならでは。
あまり数読んでいるわけではないけど、作者のはじめの一冊に是非オススメしたい一冊。
『ランチのアッコちゃん』柚木麻子
こういう魅力あったんだ。
『ランチのアッコちゃん』柚木麻子
屈託を抱えるOLの三智子。彼女のランチタイムは一週間、有能な上司「アッコ女史」の指令のもとに置かれた。
大手町までジョギングで行き、移動販売車の弁当を買ったり、美味しいカレー屋を急遽手伝うことになったり。
そのうち、なんだか元気が湧いている自分に気付いて……。
表題作ほか、前向きで軽妙洒脱、料理の描写でヨダレが出そうになる、読んでおいしい短編集。(Amazonより)
『BUTTER』でかなりの衝撃と面白いのに消化しきれない悔しさを味わった作者。
朝井リョウと仲が良いってことも気になり、もっと読み漁ってみようと昔の作品を。
これも食が物語の中心になっているけど、伝わってくるイメージや想いが全然異なっていて、振り幅の大きさに驚いた。
中毒性やきらびやかさがあるわけではなく、地味でもしっかり相手のことを想って作られた食事から、様々な人間関係にほんのり光やあたたかさが灯る印象。
またミチコを通じていろいろな仕事の世界や、一見わからない側面、日陰のような職種の縁の下の力持ち加減など、視野を広げてくれる発見がたくさんある。個人的には特に新聞とネット記事の違いのところが最近感じていることで、かなり納得した。
人生に迷っていても、感情がささくれだっていても、提供する側の想いが伝わる料理は美味しさ以上に伝えてくれるものがあり、思いがけず救われることもあると感じた。
この軽快な読み易さとすっとメッセージが入ってくる感じは癖になりそうなのでどんどん読もう。
『人を操る禁断の文章術』DaiGo
色んな文章うまくなりたいと思い。
感想ではなく自分のためのまとめ。
『人を操る禁断の文章術』DaiGo
たった1行で、人は踊らされる。メール、企画書、LINEで使えるメンタリズムシリーズ最終兵器。(Amazonより)
人を動かす文章を書くための3ステップ
- 「書かない」3原則
- 7つのトリガー
- 5つのテクニック
1. 「書かない」3原則
・あれこれ書かない
読み手は情報量の少ない文章に触れると、自分にとって好ましい方向へ想像力を働かせやすい。読み手が都合のいいように想像できる、ある程度の「隙」や「余白」を残す。
あえて文章を短くすることで、読み手の想像力を借りる。「伝わる文章」よりも「したくなる文章」を書く。
・きれいに書かない
人は「論理」ではなく「感情」で動く。感情によって行動したあと、行動を正当化する。
きれいな文章では、人は動かせない。読み手の感情と想像力を刺激する。
・自分で書かない
自分の頭の中を探る時間は最小限に。刺さる言葉は自分の中にではなく、相手の心の中にある。
マインドリーディングをして、相手が読みたい内容や言葉を選ぶ。
2. 7つのトリガー
感情を揺さぶり、人を行動に駆り立てる7つの引き金
魅力的なキーワードを散りばめる→読み手がキーワードに気づく→読もうと思う
・興味
SNSを使った「リーディング」で、相手の関心事を読む。そこを起点に文章を展開する。
・ホンネとタテマエ
相手のホンネ(理想)とタテマエ(現実)のギャップに心が揺さぶられるエネルギーが詰まっている。理想に気づかせて、行動したくなるスイッチを押す。
相手の建前まで見抜いてこそ、人を強く動かせる。建前を触れずに本音から入ってしまわない。
・悩み
HARM×世代。
Health(健康、美容) Ambition(夢、将来、キャリア) Relation(人間関係、結婚、恋人、会社) Money(お金)
年齢を知るだけで、人間の悩みは大別できる。悩みを見抜き、解決策を文章で示して、狙い通りに誘導する。
・ソン・トク
人間は得することよりも損することに、より大きな影響を受ける。
正直にデメリットを書くことで信頼が得られる。文章は、デミリットを上回るメリットで締めくくる。
・みんな一緒
読み手が所属したいカテゴリー(憧れ)、すでに所属しているカテゴリー(共通点)につなげてメッセージを訴求する。
・認められたい
「初めてです」「変わりました」を文章に盛り込み、承認欲求をくすぐると、喜んで動いてくれる。
・あなただけの
人は数量限定よりも情報の限定に弱い。
あったものが規制・制限されると欲しくなる。持っていたものがなくなると欲しくなる。
3. 5つのテクニック
・書き出しはポジティブに
初対面の印象は7秒で決まり、半年間持続する。
人は第一印象の影響から離れられない。文章の書き出しは好印象に見せるため、感情や共通の体験をポジティブかつ詳しく書く。
・なんども繰り返す
同じ「言葉」ではなく、「意味」と「感情」を文章の中で言葉を変えて繰り返していく。
伝えたい「感情」を表現する言葉を選ぶ。そのメッセージを繰り返すほど説得力はましていく。
・話しかけるように書く
読み手の疑問や反応を取り込んで書くこと。
文章は会話をするように一人二役で書く。それをまとめれば簡単に心を動かす文章が書ける。
・上げて、下げて、また上げる
ドラマにはピンチが必要。読み手の感情の起伏を大きくさせるほど、文章の持つエネルギーが強くなる。
・追伸をつける
文章で一番読まれるのは追伸。やりかけの課題、映画やドラマの予告編など、未完の情報ほど忘れられない。
予想以上にシンプルかつ論理的だった。少しづつ活かしていくぞ。
『フライ,ダディ,フライ』金城一紀
羨ましさと興奮。
『フライ,ダディ,フライ』金城一紀
私の夢―。娘の幸せ。何よりも。私の命よりも。自分には殊更なことは望んではいない。定年退職後に釣りでもおぼえ、可愛い孫たちに囲まれながら安穏な余生を過ごせれば、それでいい。あとは、妻とのんびりイタリア旅行にでも行ければ。妻に、ローマを見せてやりたいのだ。私は妻と娘を愛している。可もなく不可もない人生の道程で、妻と娘の存在だけが私の誇りであり、守るべき宝なのだ。人事の家族調査欄に妻と娘のことを記す時の至福。その至福を乱し、汚す者は許さない。そう、私は家族を守るためなら生命の危険も厭わない四十七歳のサラリーマン、のはずだった。そう信じていた。あの日が訪れるまでは―。いまから私が話そうと思っているのは、私のひと夏の冒険譚だ。(Amazonより)
最近ゾンビーズシリーズばっか読んでたら、改めて読み返したくなり久しぶりに。
冒頭の語り口調からの幕開けが『GO』と同じでワクワクさせる。
このシリーズの醍醐味である、『日常→自分への絶望→鍛錬→現実離れした解決』の流れが最高すぎて、もはや暴れん坊将軍とか水戸黄門のような黄金パターンを体験しているようだった。
そして何が魅力かと言うと、ラストの解決はめちゃくちゃ派手で、アホだなーと笑わせてくれるような展開なのに、そこに至るまでの鍛錬の部分は、えらく地味で地に足が付いているところ。
そのギャップがいいし、言い方悪いけど中年サラリーマンという弱者が少しずつ若者に感化され心身ともに生まれ変わっていくのは高揚するし、昔読んだ時には感じなかった中年の立場としての共感が増していて、同じ作品でも読む年齢によって捉え方は変わってくるなと実感。
『池袋ウエストゲートパーク』とはまた違う、高校生だからこそできるトラブルシューター(メーカー)感は爽快で、限られた時間である思春期にこんなことしてみたかったなという憧れと良い悔しさを感じさせてくれる。
映画も久しぶりに観てみようかな。
『雨の中の涙のように』遠田潤子
新たな世界観。
『雨の中の涙のように』遠田潤子
『ブラックウェルに憧れて』南杏子
フィクションだとは思っちゃいけないんだろうな。
『ブラックウェルに憧れて』南杏子
医大の解剖学実習で組まれたのは、異例ともいえる女性4人だけの班だった。城之内泰子教授の指導の下、優秀な成績で卒業した彼女たちは、真摯に医療の道を歩む。医学部不正入試と過酷な医療現場。5人の女性医師がつむぐ涙と希望。―そして秘められた意外な真実。デビュー作『サイレント・ブレス』で話題の現役医師が描く切実な人間ドラマ。(Amazonより)
現役の医師として、医療現場のリアルな事情が生々しくて好きな作家の一人だったけど、今回は女性医師に対する差別や不正入試について。
毎度のことながら、エピソードの起伏に夢中になってしまうけど、これは純粋なフィクションではなく、今尚日本で現実に起こっていることに限りなく近いことなんだということを留意しておかなければならない。胸糞悪くなるような偏見や中傷に辟易するし、簡単には変わらない現実にもどかしさはあるけど、進んでいかなければならない。
興味深かったのは、4人の各エピソードの終着点の状況、踏ん切り方というか問題の解決の仕方にそれぞれバラつきがあって、そこにも女性たちが置かれている現状の厳しさをひしひしと感じる。
そんな中での城之内教授の最終講義。
解剖学という自身の専門分野に対する誇りや矜恃、4人に伝える「患者の役に立つ人が医師なのだ」というシンプルかつ未来永劫揺るがない真理にグッときた。
そういう終結に向けたあたたかい雰囲気を感じている中での、不正入試に関する告白。衝撃が大きすぎて思わず声を挙げた。ここまで来てこの展開を持ってくるか。。
20年越しの懺悔を受けたうえでの、4人の考え方や向き合い方は素晴らしいし、すべてがそこで万事解決、めでたしって感じではなく、あくまでそのまま地続きに現実は続いていくってところも、最後まで読み手に投げかけるものが多くて考えさせられる。
「女には欲望がないというファンタジーのような世界観はいい加減、終わりにしてもらいたい」
業種かかわらず関係する大切な事実だと思う。
エピローグ(タイトル最高)でそれぞれの多少なりとも明るくな理想な未来を覗けたのが、せめてもの救いだった。
作品には直接関係ないけど、去年話題になった医学部不正入試による不合格者であった「crystal-z」の『Sai no Kawara』という曲を是非聴いてほしい。
『もし社会が女性の自由な成長を認めないのなら、社会のほうが変わるべきなのです』