『調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』 斉須政雄

ネットの記事で見て気になって。

 

『調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論』 斉須政雄

大志を抱き、二十三歳でフランスに渡った著者が、夢に体当たりして掴み取ったものとは? 「早くゴールしないほうがいい」「効率のいい生き方をしていると、すり切れていってしまう」。激流のように過ぎゆく日々をくぐり抜けたからこそ出てくる、熱い言葉の数々。料理人にとどまらず、働く全ての人に勇気を与えたロングセラー、待望の文庫化。(Amazonより)

 

教訓めいたことが目立っているのではなくて、作者のキャリアの変遷を丁寧に描写してあって、その中に自然な形で引っかかりのある教えが表されている。

 

どこかこの手の本って、作者自身の自我が成功談がメインになるようなイメージだけど、「愚鈍と利発のあいだを行く」とか「権威のある料理人になるよりも透明人間みたいになりたい」、「生命力で仕事をやる」など、健気なまでの「料理」や「レストラン」という存在に尽くす作者の姿が印象的だった。

 

また、「自分の習慣を変えずに流れるままに過ごしていたら、きっと10年後も人をうらやんでいるに違いない」、「毎日やっている習慣を、他人はその人の人格として認めてくれる」、「生き方をきちんとしたい」、「弱いがゆえにいつも手入れを怠らない」とか、常にある種の劣等感のようなものを持ちながら驕ることなく、仕事だけではなく生活全体を通して、直向きに人生に真摯に向き合っている姿は職種問わずそうありたいと思わせてくれる。

 

あと作者のお母さんの、「人にできたら、あんたもできるよ」って言葉。特別ではないかもしれないけど、単純だからこそ絶大な説得力や肯定力があって素敵だなと感じた。

 

あとがきにある、「いいところだけを求めるのではなくて、いいも悪いも、『ないまぜ』にした中にこそ、うまみが出てきている人」ってのが、大人が目指すひとつの理想形だと共感した。

 

 

 

調理場という戦場―「コート・ドール」斉須政雄の仕事論 (幻冬舎文庫)