『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ

こういう息苦しい物語も大切。

 

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『笑いのカイブツ』ツチヤタカユキ

命を削るようにネタを生み出し、圧倒的な質と量の投稿で「伝説のハガキ職人」と呼ばれた主人公。作家を志すも「人間関係不得意」のため挫折の連続。やがて死を想うようになった彼の頭の中に、奇妙な「カイブツ」が棲みつき、主人公を叱咤し、罵倒し、打ちのめす。これは妄想か現実か?熱狂的なこの青春の行く先は何処?笑いに取り憑かれた“伝説のハガキ職人”による心臓をぶっ叩く青春私小説。(Amazonより)

 

神門がTwitterで話題に上げていて気になって購入。

 

なんかちょろっと話題を聞いたことあるかもぐらいだったけど、こんなにも苦しんで悩み抜いている人だったとは驚きだったし、作品のジャンルはあるれども久しぶりにわかりやすい終わり方や希望がない物語を読めて良かった。

自分がここ数年ハマっているラジオと言う文化を支えている「ハガキ職人」という人たちがこんなにも肉体も精神も削りまくって投稿しているんだと考えると、少し背筋が寒くなる感じもするけど、ここまで真面目にぶっ飛んで傍からは狂っているように見えるまで一つのことに心血を注ぐっていうのはとても尊いことなんじゃないかと思う。その行為によって人並みの「青春」や「社会的成功」を棒に振ったとしても。

この物語は何度も行ったり来たりをする。ボロボロになりながら少し前進したかと思うとすぐ後退させられるような。その反復によって作者のお笑いはどんどん増幅されていったのだと思うけど。

いくらやってもやっても日の目を見ないことなんていくらでもあるし、うまくいくことなんかはほとんどなくて、それでもたったひとつの信じられるものや信念に対して向かっていけるかという、狂おしいほどに純粋な人間の最短距離の半径での壮大な物語。

関わった作品を見てみたいし、今どうしているか作者の人生にものすごく興味が湧いてきた。

 

 

笑いのカイブツ (文春文庫)

笑いのカイブツ (文春文庫)