『あの夏の正解』早見和真
面白すぎて一気読み。
『あの夏の正解』早見和真
「Yahoo! ニュース|本屋大賞 2021年ノンフィクション本大賞」ノミネート作品!
コロナ禍で甲子園が中止になった夏。
夢を奪われた選手と指導者はどう行動したのか。
「このまま終わっちゃうの」?
2020年、愛媛の済美と石川の星稜、強豪2校に密着した元高校球児の作家は、彼らに向き合い、〝甲子園のない夏〟の意味を問い続けた。退部の意思を打ち明けた3年生、迷いを正直に吐露する監督……。パンデミックに翻弄され、挑戦することさえ許されなかったすべての人に送るノンフィクション。(Amazonより)
『イノセント・デイズ』や『ひゃくはち』などの小説が好きな作者だったけど、ノンフィクションでもやられた。
戦争や米騒動で、過去二回しか取りやめになったことがない、甲子園。それが感染症という生きている人が誰もが経験したことのないことでなくなってしまった。
作中でもあるように、「自分が懸けてきたものに挑戦さえできない」状況に高校生たちはどのような感情を発するのか。それは自分たち大人がわかったように、労っているように寄り添う綺麗事では片付けられない渦巻いた変遷を辿っていく。そこにあるのは割り切りからの清々しさなのか、ある意味では呪縛から逃れられた開放感なのか、チームスポーツと言えど、そこには本当に一人一人違った思いがあった。
中学で軟式野球をやり、高校からは個人競技のテニス部に所属した自分としても、高校野球というのは本当に見返りが少ないスポーツだと感じる。どれだけ毎日必死に練習して、学校生活含め品行方正を求められ、厳しい上下関係に囚われたとしても、それでも目指したいものが「甲子園」であり、三年間過ごしたいものが仲間との高校野球なんだと思う。本人たちにとっては、もちろんそんなに苦しい環境ではなく、一時の楽しさや嬉しさがすべてを勝っているのかもしれないが。
大きな目標を目指して、勝つことも負けることもさせてもらえなかった子どもたちに、指導者たちはどんな姿勢で向き合えばよいのか、大人たちにも何度も翻意して悩ませて出した結論があった。
作者自身の高校野球生活も含まれており、自身が味わった挫折や後悔も媒介として、生徒たちのわずか三ヶ月ながら、他者にとっては途方も無いほどの年月をかけて経験するであろう心の変遷と成長を味わえる。
作中に登場するような強豪校だけの話ではないし、いろんな状況・立場の生徒たちがいるだろうけど、「自分のせいではなく諦めることを余儀なくされる」という理不尽を思春期に経験した、とても稀有な存在の彼らの感情に触れることと、これからどのよう大人になっていくかという期待を抱くことは、今現在の大人たちにとってとても貴重で贅沢な経験である。