『悪と無垢』一木けい

今回もまんまと翻弄された。

 

『悪と無垢』一木けい

「逃げなきゃ。この女のそばにいるのは危険すぎる」
新人作家、汐田聖が目にした不倫妻の独白ブログ。ありきたりな内容だったが、そこに登場する「不倫相手の母親」に感情をかき乱される。美しく、それでいて親しみやすさもある完璧な女性。彼女こそ、聖が長年存在を無視され、苦しめられてきた実の母親だった。ある時は遠い異国で、ある時は港の街で。名前も姿さえも偽りながら、無邪気に他人を次々と不幸に陥れる……。果たして彼女の目的は、そして、聖は理解不能の母にどう向き合うのか?(Amazonより)

 

 


第一章から止まらなくなる流れ。でも読み終わるとさらに深まっている謎。
こんなに整理するために読み直したの久々。

 

時系列はバラバラながら「英利子」とのそれぞれの出会い、受けた恩恵、予期せぬ無関係そうに思える出来事。
章を重ねるたびにそれらが密接に繋がっていることを理解し、表と裏から覗いているような感覚。理解する喜びとさらに深まっていく困惑がごちゃ混ぜになって、格別な体験だった。

 

全体的な大きな流れだけではなく、各章の欲望と悲哀、人間の不気味さ、明らかになり切らないちょっとした疑問点など、それぞれの読み応えも抜群だった。
また著者らしい、常識や大多数の意見を背にした正義観から、あぶれてしまう人たちを掬い取る文章はやはり胸がすくものがあった。

 

”悪気がないことはわかっていた。あるのは使命感。想像力の欠如した的外れの。”

 

そして、各章の轍を辿っていく最終章。
それまでずっと、もういないことにされていた英利子の長女・聖の視点でできる限りの収斂を迎える。
深く関わった登場人物で唯一、英利子に錯覚を抱かなかった聖は、抗い、逃げながらも創作を通じて母に対峙していく。

 

でもここで新たに「そんな母親の傍らで、娘のために積極的な行動を起こさなかった父親」は果たして無罪なのか、という疑問が出てくる。
個人的には母娘の話で終わるんだろうなと思っていたから、新たに父の存在まで出てくると一読では処理できない情報と感情になってしまった。
それは聖が生涯かけて解いていく命題でもあるし、最後の文章が納得と諦めの気持ちを持って、全てを代弁していると思う。

 

”こことここの辻褄が合わないと思うんですが。
その指摘を見たときは笑ってしまった。今見ても可笑しい。何度でも笑える。
事実を記すと辻褄が合わない。不可解で無秩序。それがわたしの育った家だった。”

 

 

 

 

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