『恋とそれとあと全部』住野よる

「捕まってんな、私ら」

 

『恋とそれとあと全部』住野よる

◆あらすじ◆

片想い男子とちょっと気にしすぎな女子。二人は友達だけど、違う生き物。

一緒に過ごす、夏の特別な四日間。

めえめえ(瀬戸洋平)は下宿仲間でクラスメイトの女子サブレ(鳩代司)に片想いをしている。

告白もしていないし、夏休みでしばらく会えないと思っていた。そのサブレが目の前にいる。

サブレは夏休み中に遠方にあるじいちゃんの家に行くのだが、それはある〝不謹慎な〟目的のためだった。

「じゃあ一緒に行く?」

「うん」

思いがけず誘われためえめえは、部活の休みを利用してサブレと共にじいちゃんの家を目指す。

夜行バスに乗って、二人の〝不謹慎な〟そして特別な旅が始まる――。

恋という気持ちが存在する、この世界に生まれてしまった全てのあなたへ。

Amazonより)

 

 

 

◆感想◆

たったひとめくり、たった一文で、世界をガラッと変えてしまう衝撃。

 

その一文までも、不器用なまでに自分の発言と他者に誠実であろうとする女の子の描写や、見過ごしても問題がないようなわずかなやり取りの違和感をしっかりと言語化している部分に、著者らしい面白さがたくさん散りばめられている。

 

ちょっとユニークな女の子と落ち着いている男の子の、夏休みらしい恋愛のはじまりのストーリーだと思っていたのに、その一文によって、それまでに感じていた男の子の好きな子に対する考え方とか理解の寛容さみたいなのものが、その他大勢の意見に揺さぶられず積み重ねていった相手への想いみたいなものが、ある種どうでも良くなるというか、意味がないものに感じてしまう。

 

そして、自認している自分の人間性と、好きな人から伝えられる汚さも含んだ人物評に格差があることは、思春期の男子にはとても耐えられないことだと思う。

 

でもそんなわかりやすいハッキリしたストーリーではなく、その短所と見なされるような部分も含めて、そこに囚われてる自分も込みで、相手にとってどんな存在でありたいかという、たくさんの要素を含んだグラデーションな自我と関係性の物語だった。全然上手く説明できないけど。

 

個人的に印象的だったのが、自由や多様性の象徴である虹が、その色数の認識自体に地域で差があるということで、「様々な色を受け入れる受容性」という考え方自体が枠であり一種の決めつけなんじゃないかと思い始めてきた。この考え方は朝井リョウの『正欲』を読んだことが大いに関係していると思う。

 

相手の自由の羽をもぐことになっても、自分が望んでいなかった不自由が付き纏ったとしても、一緒にいたいという代えがたい価値について考えさせられる作品だった。

 

 

 

 

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