『腹を割ったら血が出るだけさ』住野よる

新しい視点をもらえた。

 

 

『腹を割ったら血が出るだけさ』住野よる

高校生の茜寧は、友達や恋人に囲まれ充実した日々を送っている。しかしそれは、「愛されたい」という感情に縛られ、偽りの自分を演じ続けるという苦しい毎日だった。ある日、茜寧は愛読する小説の登場人物、〈あい〉にそっくりな人と街で出逢い――。 いくつもの人生が交差して響き合う、極上の青春群像劇。(版元.comより)

 

麦本三歩シリーズはあったけど、久々の著者の作品でしかもかなり期待高まるタイトルで楽しみにしてた今作。

冒頭から他人がどう見えているか、自分がどう見られているかが痛いくらいに描写されていて、作者らしさがダダ漏れ

だけどその期待感とは裏腹に、主人公の思考というか心理みたいなものが、(自分にとっては)理路整然と詳しく書かれすぎていて、徐々に自身の理解力の範疇から遠ざかっていく感じがして、著者の作品で初めて「読みきれないかも…」ってちょっと挫折しかけた。

しかしそこを抜けると、なんとかしがみついてきた登場人物たちへのそれまでの理解の蓄積もあり、214ページあたりからの面白さは格別で、めちゃくちゃゾクゾクした。ただそれは単に反転していく痛快さというよりも、どこにでも誰にでも存在する曖昧な部分に対する齟齬というか、二分できない妙な読み応えだった。

それからクライマックスまでは、それまでのページをめくる遅さが嘘のようにどんどん没頭していき、自分に新たな考え方の視点を残していった。

昨年読んだ本で一番衝撃だったのが、朝井リョウの『正欲』だったけど、そこで感じた「自分の了見の狭さの範囲内での善悪の判断への警鐘」のようなものとはまた違った、「自分らしさの解放度が人生の幸福度に直結するのか」みたいなものを感じた。どちらかというと自分も逢よりの考え方だったから、その反対側?に立つ人たちの主張も考えるきっかけとなった。

さまざまな登場人物たちの思考の波を浴びて疲労度は高いけど、また最初からじっくり読んでみたくなるずっと本棚に置いておきたい作品。

なんとなく『NANA』の世界観をイメージして読めた。

 

 

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