『ナナメの夕暮れ』若林正恭

今年ベストに入るかも。

 

f:id:sunmontoc:20180925000137j:plain

『ナナメの夕暮れ』若林正恭

オードリー若林、待望の新エッセイ集!
『完全版 社会人大学人見知り学部 卒業見込』から3年。
雑誌「ダ・ヴィンチ」での連載に、大幅に書き下ろしエッセイを加えた、「自分探し」完結編!
ゴルフに興じるおっさんなどクソだと決めつけていた。
恥ずかしくてスタバで「グランデ」が頼めない。
そんな自意識に振り回されて「生きてて全然楽しめない地獄」にいた若林だが、四十を手前にして変化が訪れる――。
ゴルフが楽しくなり、気の合う異性と出会い、あまり悩まなくなる。
だがそれは、モチベーションの低下にもつながっていて……
「おじさん」になった若林が、自分と、社会と向き合い、辿り着いた先は。
キューバへの旅行エッセイ『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』では第三回斎藤茂太賞を受賞。
「生き辛い」と感じている全ての人に送ります。(Amazonより)

 

山里亮太の『天才はあきらめた』の解説を読んでこの人も文章面白そうと思って読んでみたら、大正解だった。

まず文章が上手い。読みやすいことばっかり書いてあるわけでもないんだけど、ハッとする、自分の頭の何かのスイッチを入れてくれるようなフレーズは拾いやすいし、心象描写のような表現も好き。旅行中のお父さんとの会話なんて思わず感動した。

 

個人的にも30歳を目前に色々考えることが多くなってきてる現在、周りの意見に左右されず自分の意思を貫くことに多少の迷いもあったりして、作中の「耳が痛いことを言ってくれる信頼できる人を持つこと」って部分がいい意味で一旦冷静にさせてくれた。

悩み抜いてきた人だからこそ結果ニュートラルというか、「その気持ちもわかるよ」ってスタンスの文章が多くて、本当に今の自分に参考になるトピックが多かった。

 

あとあとがきの「俺はもうほとんど人生は”合う人に会う”ってことで良いんじゃないかって思った。」ってとこに食らった。これからあと十数年たくさん経験・失敗してその域に達したい。

 

だいぶ面白かったので前のエッセイも読んでみよう。

 

 

ナナメの夕暮れ

ナナメの夕暮れ

 

 

 

 

 

天才はあきらめた (朝日文庫)

天才はあきらめた (朝日文庫)

 

 

 

sunmontoc.hatenablog.com

 

 

『ひとつむぎの手』知念実希人

マイマスターは期待を裏切らない。

 

f:id:sunmontoc:20180924184343j:plain

 

『ひとつむぎの手』知念実希人

 

人として一番大切なものは何か。若き心臓外科医に課された困難を極めるミッション。医療ミステリーの旗手が挑むヒューマンドラマ。(Amazonより)

 

今までの作者の医療ミステリーとは違って、中間管理職的な立ち位置の主人公で新感覚だった。

才能や特殊能力で切り開いていくのではなくて、真摯に人(患者)と向き合うことで周りを変えていくところが、人間くさくていいし、タイトル通りだなと。

 

また研修医と分かり合えた後は、感動的な展開を進み続けるかなと思ったら、冒頭からの主人公の欲や嫉妬が最後まで表現されていて、全てがうまくいかないところも現実味があって良かったし、最後には他人に劣っているところを素直に認める主人公がかっこ良かった。

 

最後の送別シーンの研修医のセリフは思わず感極まります。

諏訪野が出てくるところも作者ファンとしてはテンション上がる。

 

 

 

ひとつむぎの手

ひとつむぎの手

 

 

 

『七つの試練 池袋ウエストゲートパーク14』石田衣良

1年に一回の楽しみ。

 

f:id:sunmontoc:20180917182603j:plain

 

『七つの試練 池袋ウエストゲートパーク14』石田衣良

 

常に現代を映し出す、超人気シリーズ最新刊!
SNSで課題をクリアして「いいね」を獲得するゲームが若者に流行。次第にエスカレートする課題に「いいね」欲しさに挑み、ある者は大怪我を、ある者は命を落とすという事態に……。怪我した高校生の妹と共に卑劣なゲームの管理人をあぶりだそうとするマコトとタカシが仕掛けた大掛かりなトラップとは。
スキャンダル一発ですべてを失う芸能人、お手軽な欲望が横行する出会いカフェ、病んだ身内をひた隠しにする親族監禁――どこか現実の事件を思わせる事件を、池袋のトラブルシューター、マコトとGボーイズを率いるキング、タカシが軽やかに解決する4篇を収録。(Amazonより)

 

ぶっちゃけもう目新しさとか新たな魅力を求めているわけではない。

でもやっぱりマコトたちの暮らしぶりや成長具合を見たいし、キングとの付かず離れず表さずでもぶっとい繋がりにニヤニヤしたいし、キングの冷たすぎる格好良さを一生味わいたい。

 

毎作毎作世相やタイムリーな事件をうまく若者の感覚で取り入れていて時代を映す鏡のようになっていて、数百年後とかにシリーズ読み返したら貴重な当事者視点の時代を知る資料になるんじゃないかと勝手に思ってる。

 

あと作中のなんてことない部分なんだけど、「帰りには雨になっているかもしれないが傘はもたなかった。傘が嫌いだし、未来に保険をかけるのも嫌いなのだ。」って所がかっこいい。

 

来年も楽しみにしているけど、そろそろまたマコトの恋愛事情を読みたい。

 

 

七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV

七つの試練 池袋ウエストゲートパークXIV

 

 

 

sunmontoc.hatenablog.com

 

 

『鳩の撃退法』佐藤正午

この面白さはどう表現すればいいんだろう。

 

f:id:sunmontoc:20180916182415j:plain f:id:sunmontoc:20180916182421j:plain

 

『鳩の撃退法』(上下) 佐藤正午

 

かつては直木賞も受賞した作家・津田伸一は、「女優倶楽部」の送迎ドライバーとして小さな街でその日暮らしを続けていた。そんな元作家のもとに三千万円を超える現金が転がりこんだが、喜びも束の間、思わぬ事実が判明する。―昨日あんたが使ったのは偽の一万円札だったんだよ。偽札の出所を追っているのは警察だけではない。一年前に家族三人が失踪した事件をはじめ、街で起きた物騒な事件に必ず関わっている裏社会の“あのひと”も、その動向に目を光らせているという。小説名人・佐藤正午の名作中の名作。圧倒的評価を得た第六回山田風太郎賞受賞作。(Amazonより)

 

教養や哲学や訓示などを得られるからとかではなく、純粋に物語としての純度・密度がものすごかった。

 

上巻では、主人公である作家がこの作品を書いているという主観を俯瞰?しているような状況が新鮮だったし、ある劇作品をいろいろな役者・関係者の視点・角度から何度も観ているような感覚。

登場人物の一筋縄でいかない様子やクセの強さは伊坂幸太郎と似ている感じ。

はじまりの状況が上巻ラストに繋がっていて、結局物語が進んだのか何か解決したかよくわからない読後感で終わる。下巻での展開が全く予想つかない。

 

そして下巻。やっぱり何かがわかりやすく現れているわけではない。もちろん引っかかるセリフや印象的な場面もあるんだけど、煙に巻くような、人を食ったような世界観や登場人物同士ののらりくらりとしたやりとりを単純に楽しんだ方が良い気がする。

オーラスで真相に繋がる時の時空が巻き戻っていく様子は見事だった。

 

主人公はイメージ的に今より少し若い役所広司

 

 

鳩の撃退法 上 (小学館文庫)

鳩の撃退法 上 (小学館文庫)

 

 

 

鳩の撃退法 下 (小学館文庫)

鳩の撃退法 下 (小学館文庫)

 

 

 

 

『ワルツを踊ろう』中山七里

久しぶりの中山七里面白くて一気読み。

 

f:id:sunmontoc:20180916175011j:plain

 

『ワルツを踊ろう』中山七里

 

20年ぶりに帰郷した了衛を迎えたのは、閉鎖的な村人たちの好奇の目だった。愛するワルツの名曲“美しく青きドナウ”を通じ、荒廃した村を立て直そうとするが、了衛の身辺で、不審な出来事が起こりはじめ…。(Amazonより)

 

中山七里作品の主な要素である医療・法律・音楽ではなく、猟奇さや陰鬱した人格、狭い閉鎖的な世界観を純粋に楽しめる小説でした。舞台としてはずっと天候は曇り。

 

読み始めから感じる、現実の世界の話だし自分も田舎に住んでいるのに、異世界の話と錯覚するような鬱屈した空気感。

田舎生活のネガティブな側面がこれでもかと強調されて表されているけど決して間違いではないんだと思う。

 

常に油断や慢心を抱いている浅はかな主人公が世紀の発明のように自分の思いつきに過信し、見事にそれが失敗することの繰り返し。ただしそれも全て能見が心配しているように見せかけて煽ってるのが読み取れて薄気味悪い。

そして中盤以降の主人公がどんどん崩壊していく小気味良さ。これぞ中山七里。

 

終盤の殺害シーンでも、細かくクラシック曲の説明描写を入れるから、ヒートアップせずにある種冷静になりつつ読めて、更に残虐性や冷酷さを感じられる。

主人公が全てを完遂したあとに「捕まりたくない」という感情を持っていたことが意外だった。そこも既にぶっ壊れてるものだと。

 

ラストのオチで作者の別作『ヒートアップ』の要素も関わっていたことがファンとしてはテンション上がった。

 

知識や教養部分だけではない作者の魅力をこれでもかと味わえるのでオススメです。

 

 

 

ワルツを踊ろう

ワルツを踊ろう

 

 

ヒートアップ (幻冬舎文庫)

ヒートアップ (幻冬舎文庫)

 

 

 

『天才はあきらめた』山里亮太

性格悪いとかどうでもよくなるレベルの努力の量。

 

f:id:sunmontoc:20180908080530j:plain

 

『天才はあきらめた』山里亮太

「自分は天才にはなれない」。そう悟った日から、地獄のような努力がはじまった。
嫉妬の化け物・南海キャンディーズ山里は、どんなに悔しいことがあっても、それをガソリンにして今日も爆走する。
コンビ不仲という暗黒時代を乗り越え再挑戦したM-1グランプリ。そして単独ライブ。
その舞台でようやく見つけた景色とは――。
2006年に発売された『天才になりたい』を本人が全ページにわたり徹底的に大改稿、新しいエピソードを加筆して、まさかの文庫化! 
格好悪いこと、情けないことも全て書いた、芸人の魂の記録。
《解説・オードリー若林正恭》(Amazonより)

 

生理的な気持ち悪さの分厚いオブラートに包まれてたけど努力の量と自分自身の追い込み方が半端じゃない。

 

もちろん頭の回転の速さとか天賦の才を持ちながら、どうやったら自分を追い込めるか、努力し続ける卑屈な人間でいられるか、劣等感を燃やし続けられるかということを徹底的に考え抜いている人なんだと教えてくれた。

 

そしてもちろん主観だから多少ヒーロー的ではあるけれども、ここまで人としてのダサさを包み隠さず(まだ出し切ってはいないんだろうけど)表現していることが自身と向き合い続けている証拠なんだろうなと。

 

オードリー若林の解説も愛のある面白さで、特に「天才とは、尽きない劣等感と尽きない愛のこと」という賛辞がものすごくいい言葉。あと作者が「利他的な人間」であることも気づかせてくれた。

 

この本読んでよかったとは思ってるけど、読み終わったあとに動画サイトでツッコミ集観たら努力の賜物なんだなと素直に笑いきれなかった。

 

 

天才はあきらめた (朝日文庫)

天才はあきらめた (朝日文庫)

 

 

『アノニム』原田マハ

久しぶりの原田マハ

 

f:id:sunmontoc:20180903235104j:plain

 

『アノニム』原田マハ

ジャクソン・ポロック幻の傑作「ナンバー・ゼロ」のオークション開催が迫る香港。建築家である真矢美里は七人の仲間とともにオークション会場へ潜入していた。一方、アーティストを夢見る高校生・張英才に“アノニム”と名乗る謎の窃盗団からメッセージが届く。「本物のポロック、見てみたくないか?」という言葉に誘われ、英才はある取引に応じるが…!?ポロックと英才、ふたつの才能の出会いが“世界を変える”一枚の絵を生み出した。痛快華麗なアート・エンタテインメント開幕!!(Amazonより)

 

読む前はもっとかっちりしてるいい意味でいつものアート系の作品かなと思ってたけど、どこか近未来的なワクワク感強めでした。

 

自分にはあまり馴染みがなかった香港という東洋的でもあり西洋的でもある街が世界中最高峰の芸術のオークション会場にピッタリな感じがした。

また今まで知らなかった「オークショニア」という職業も知れた。特に作中終盤の一億ドル以降の競り合いを煽る姿は想像し応えがあった。

 

 

「アートに世界を変える力はないかもしれない。けれど、ひょっとするとアートで世界を変えられるかもしれないと思うことが大切なんだ」

 

という言葉が印象的で、東日本大震災時にハイスタの横山健が伝えていた

 

「音楽で世界は変わらない。音楽にケツを蹴り上げられて、熱い気持ちになった人が行動して、そうして世界は変わっていくんだ」

 

みたいな言葉に通じる部分があるなと勝手に感じた。そう信じることが大事なんだと。

作中のキーマンである英才のような今では厨二病とみなされてしまうような思い込みや根拠のない自信を持ち続けることが、何かを成し遂げる時には大きな原動力になるんだなと初心というか素直な考え方に戻らせてくれた。

 

作者のアートを大切にする心は今まで通り伝わってくるんだけど、エンターテイメントとしての読み易さも、今までの作品より感じて新鮮だし、作者の魅力の新たな側面を知れた気がした。

 

 

 

アノニム

アノニム